そして僕等は歩き出す



「転生というやつだろうね。土方さんや原田さんも、日本のどっかにいるはずだよ」

「……確信でもあるのか?」

「まあね。さっき、生徒会倉庫の鍵をちょっと拝借した訳もそこにあるのだよ」


カラカラと俺の自転車の乾いた音が静かに聞こえる。徒歩で通っているらしいは鞄を右肩にかけてサブバックを右腕にかけていた。重みで体格が歪んでしまうからあまりよくない持ち方だな、と頭の隅で冷静に思う。

にこりともせずに淡々と告げるに可愛いげがないと思いつつも、それは次々浮かんでくる前世の記憶と重なった。そうだこんな人なんだという人物は。それに呆れつつも懐かしく、同時に嬉しく思う自分がいることは確かだった。しかしそれと勝手に鍵を借りていったのは話が別である。


「だからって勝手に鍵借りてくことはないだろ、次からはちゃんと申請しろ」

「いや、たぶん次はないから安心して」

「お前……まぁいい、それで確信っていうのは?」

「あぁ、うん、それはね」


そう尋ねるとは鞄から一枚のルーズリーフを取り出した。それにはごちゃごちゃと所々にメモ書きがしてあるようで、はい、と渡されたそれを素直に受け取り最初に目に留まった箇所を眺める。あ、と俺が小さく声を漏らすと同時には「そういうことだよ」と前を見つめながら告げた。俺は所々に散らかっている名前をひとつずつ掬うように拾いあげ、流れ込んでくる記憶と照合しながら呆然と言葉を零す。


「気付かなかった……過去の生徒会に、山南さんに土方さん……原田さんの名前も?」

「偶然ではないと思うよ。書く時間がなかっただけで、沖田や永倉……風間さんの名前まで見つけた。……どういう因果なんだろうね、分からないけどみんな転生してるってことだ」

「でも、上手くいきすぎている。みんなこの学校で、しかも生徒会に入っていたなんて、」

「しかし例外がいるんだなこれが」

「は?」


急に突き付けられた過去と現実に必死で頭を働かせていると、更に脳内がこんがらがりそうな台詞が彼女から聞こえた。ぐるぐると頭の中をいくつもの情報が狂うように行き交う。は俺の意味が分からない、といった様子に苦笑いを浮かべながら切り出した。


「私も最近気付いたんだけどね。いるんだ、生徒会に入っていない人が」

「え?いるって……今?!」

「うん、今。現在」


不思議なことだよねぇ、と呑気に零しながらはあははと笑った。俺にはどれが不思議でどれが不思議ではないのかこんがらがってくる。今この学校にいるのに生徒会には入っていない人物。一体、誰なのか。思案しているとはぽろりと簡単に答えを零した。


「斎藤くん。斎藤一くん、彼もやっぱりいるんだよね、この学校」

「さっ……いとう、さん?!」

「そ。2年9組の斎藤くん、私の知る中で生徒会に入っていない“過去の人”」

「なぜ……」

「さあ?まぁ……私が思うに“過去の人”が重なったから、じゃないかなぁと。推測の域を出ないけど」

「重なった?」

「調べた限りでは、なぜかみーんなばらばらなんだよね。つまり……“過去の誰か”がこの学校の生徒会にいるときには、“他の過去の人”は生徒会には入っていなかった。実際、土方さんと左之さんは同学年だったんだけど、入れ替わるように生徒会に入ったり抜けたりしてて、2人が同時に生徒会に入ってるってことはなかったみたい。それは2人が仕組んだことなのか、それとも偶然なのか……それは分かんないけど」


だから斎藤くん、そして私にも生徒会に入る兆しはないのかもしれないね、とは呟くようにして告げた。




100918(本編にはあまり関係ない補足説明とネタ披露みたいな。オチもなければ山も谷もありません。オマケとして楽しんでいただけたなら幸いです)