「!」 「はいぃっ?!」 廊下少し先を歩いていたに声をかけると、彼女は急な声に驚いたらしく大きくびくりと跳びはねてから勢いよくこちらを振り向いた。しかも相手が俺だと思わなかったのか、認識した途端強張った表情になる。日本支部から異動してきたばかりの彼女に、緊張するなと言うほうが無理な話かもしれないのだか、毎回この反応ではいささかこちらが傷付く。 「お、お疲れさまです、柔造さん」 「あぁ、もな。どや、こっちにはもう慣れたか?」 「はぁ…まぁ、ぼちぼち」 「そか、ならよかったわ!みんなええ奴やろ」 「はい、みなさん優しくて…面白い方ばかりです」 の最後の一言に噴き出すと、彼女は「す、すみません!」と勢いよく頭を下げた。 確かに彼女がつい最近まで所属していた日本支部より面白い奴が多いし、その分出張所内の雰囲気も柔らかで大分フレンドリーな職場だ。に怒ってないとジェスチャーで伝えながら、こうも言われるといっそ清々しいと思う。 「あー、金造には会うた?同期なんやろ?」 「はい、異動してきた日に少し。志摩くん、変わってなくて安心しました」 「ははっ!アイツ、ドアホのまんまやろ」 「あ、えーと、…へへ」 仮にも親族の前で金造のことをけなすわけにはいかないと思ったのか、はへらりとした笑みを漏らして曖昧な返事をした。落ちてきた髪を耳に掛けてはにかむように笑うその姿は可愛らしく、頭を撫でたくなる衝動に駆られる。 「ま、楽しく過ごしてもろうてるんなら何よりや。慣れるまでは適度に息抜きながらでええし、なんかあったら気楽に声かけてくれてええんやえ?」 「ありがとうございます」 ではこれで、とは俺に小さく頭を下げると小走りで廊下の先へと行ってしまう。もしかしたら急ぎの用事があったのかもしれない、悪いことをしたなぁと急に引き止めたことを少し申し訳なく思いながら頭の後ろを掻いた。 離れていく小柄な彼女の、まだ着慣れた様子のないピシッとした制服も、慌てて整えたような髪も、危なっかしい足取りも、その全てが新鮮で目を離せない。その確かな感情の裏に潜む本心に、この時の俺はまだ気付いていなかった。 繋ぎ合わせる
120331 |