「お前、俺んこと好きやろ」
「は、はぁ?!…あ、」

返事をした途端に肘が積み上げられていた書類にこつんと当たり、勢いよく雪崩た。バサバサっと机から広範囲にわたって滑り落ちたそれらを、ため息をつく間もなく拾い集めようとしゃがみこむ。

「なに動揺しとんねん」
「…してない」
「ん」
「あ、ありがとう」

一緒になって拾い集めてくれた書類を受け取り、とんとんと角を揃えてまとめなおす。動揺、するに、決まってるじゃないか馬鹿。

祓魔一番隊隊長の志摩と祓魔二番隊隊長の私はなにかと一緒に仕事をすることが多かった。あるときは手を貸し、あるときは手を貸してもらい、またあるときは共同戦線をはる。祓魔塾を卒業した柔造とは異なり独自のツテで祓魔師の資格を得た私は、歳は志摩より年下と言えども祓魔師歴は私のほうが長かった。お互い同じ階級なわけだし、ここはいっそ敬語なしでいきましょうと決めあったのはそう昔ではないが最近でもない。

年上で、かっこよくて、優しくて、子供好きで、仕事もできる。そんな志摩に恋に落ちないわけがなかった。モテる彼としがない一隊長の私。実力はさておき、人格偏差値は雲泥の差だ。そう、雲泥の差なのだ。だからこの思いがばれることはあってはならないし、そうなることがないように今まで細心の注意を払ってきた。なのに先程の志摩の言葉である。一体いつから、なんで、どうして。

頭の中はパニック状態だったが、それを悟られないように平常心を装いながら書類の枚数を数える。書類の束をうねらせて数えやすく広げると、慣れた手つきで書類の角に指を滑らせた。

「全部あるか?」
「うん」
「それ午後の会議のやつやろ、貰っとくわ」
「う、うん」
「…ほんで、さっきの続きやけど、」
「あ、あ〜え〜と志摩、私このあと警邏との予定が、」
「ないやろそんなん」
「…ハイ」

うろうろと視線を彷徨わせながらついた嘘は勿論のこと見破られ、私はどうにかしてこの場から逃げきれないかと考えるものの、相手は志摩だ。私の安直な脳みそでは敵わないことはとうの昔に分かり切っていた。書類を志摩に渡してしまったため手持ちぶさたになった両手の指を、もじもじと絡める。

「なぁ、俺んこと好きなんやろ?」
「…どっから、その自信が、でてくんの?」
「お前見とったら分かる」
「う、うそだ」
「嘘やあらへん」

距離をじりじりと詰められて、その度に私は少しずつ後ずさるものの、すぐ後ろはもう壁だった。大分上を見上げた先にある志摩の顔が、真剣で。私はごくりと唾を飲み込んで唇をひき結んだ。あそんでる、だけだ。そう、きっと彼は、この私の反応を楽しんでいるだけに違いない。そう思い、やや強気に志摩を見上げると、志摩はそれをどう受け取ったのかついに私を壁際まで追いつめた。

「ど、どちらにせよ!私なんてお断りでしょ、そんくらい分かってるんだから」
「…せぇへんよ」
「え?」
「やから、断ったりせぇへんて。俺も好きやもん」
「え、………な、に、からかってんの」
「からかっとらんよ。なぁ、俺んこと好きなんやろ?認めてや」
「え、え…、ちょ、し、ま、」
「好きや」

はよ気付けやあほ、そう耳元で囁かれた呟きには、これまでに聞いたことがない熱さがこもっていた。



カーテンコールはすぐそこに




120811