「金造」 「……」 「金造」 「……」 「おーい、金造さぁん」 「…なんやねん」 「いや、それはこっちの台詞だよ」 警邏中に悪魔と遭遇したものの、すぐに駆け付けてくれた救護隊のおかげで討伐にそう時間はかからなかった。私も金造も大した怪我はなく、魔障を受けてもいない。だから私は分からなかったのだ、なぜ金造がこんなにも機嫌を悪くしているのか。 出張所に戻り所長への報告を終えると、中庭にぽつんとしゃがみ込んでいる金造を見つけた。近付いて後ろ姿に声をかけるけれど反応はなく、隣にしゃがみ込んでしつこく声をかけ続けるといじけたような返事が聞こえる。なんだか急に彼がかわいく思えてわしゃわしゃと頭を撫でてあげた。どうしちゃったのよ、金造。 「…俺はな、」 「うん」 「本当はな、お前に戦ってほしくないねん」 「うん、知ってる」 「知ってるんかい!」 「だって私が現場にいると、金造、いつも嫌そうな顔してる」 金造はばつが悪そうに俯いて、ガシガシと頭を掻いた。私が気付いてないとでも思っていたのだろうか、このアホ造は。 「…堪忍な」 「べつに怒ってないよ。少し、寂しいけど」 私が討伐現場にいると知ると、一瞬だけれど金造はいつも嫌そうな顔をした。それは金造が私のことを嫌っているからではないと分かっているからこそ、申し訳なく思っていた。むしろ謝りたいのはこっちのほうだ。 しゃがみ込んでいるのがつらくなってきて、地面にすとんとお尻をつく。金造の髪が傾きかけた太陽に反射して、キラキラと光を放っていた。 「…俺はな」 「うん」 「俺はな、大事な人が傷付くのは、もう見たないんや。が傷付くの、見たないんや。ごめんな」 「な、なんで金造が謝るのよぉ…」 金造の頭を引き寄せてよしよしと撫でてやると、金造は膝に額を当てて俯いた。今日の金造はおかしい、そう思ってからはたと気が付く。あぁ、そうか、もうすぐあの日がやってくる。 あの青い夜の日、廉造と坊を守って瀕死の状態になった志摩家の長男である矛造さんは、その数日後に亡くなった。その日はもうすぐそこまで来ていたのだ。毎年この時期になると金造は、いろんなことに敏感になる。 私を守りたいと思ってくれるのも、傷付けたくないと思ってくれるのも、私を大事だと言ってくれるのも、すごくすごく嬉しい。けれど金造が昔から私のことをそのように思っていると知りながら、金造は私に現場に行くなと言ったことは一度もなかった。それはただの彼の我が儘でしかないと、分かっているから。 「…」 「ん?」 「俺はまだ、お前をどうやって守ればいいんか、分からん」 「…うん」 「守りたいんや、でも縛りたくない」 「うん」 「…ずっと傍におってな」 返事の代わりに、よしよしと撫でていた手を止めて横からぎゅっと金造を抱きしめた。金造はびくりと一瞬震えてから、そっと私を抱きしめ返してくれる。いつも元気に明るくキラキラと光を放つその髪が、今日だけはとても寂しそうに、見えた。 120415(捏造ネタすみません…) |