ダイナミック宣言 「っ…は、はぁっ、」 足りない酸素を取り込もうとするけれど、上手く呼吸ができずに苦しい息遣いはなかなか収まらなかった。膝に手をついて額を流れる汗を腕で拭うと、べったりとした水分が風に晒されて気持ちがいい。 息遣いはやがて落ち着きはじめ、肩はまだ小さく上下しているけれど、ふぅと一度大きく息をついた。運動神経がいいという自覚はある。ただ問題は体力だった。体力がない、そう言い切ってしまえば普通は女子だから仕方ない、で済まされるかもしれないが、祓魔師を目指している私にとっては大問題だった。運動神経がなんだ、体力がなくてはまず仕事を片付けられない。それを重々承知しているからこそこの問題を無下には扱えず、悩みの種でもあったのだ。 「、大丈夫か?」 「志摩、」 ほれ、と運動場の端に置いてあった私のスポーツタオルを渡される。相変わらず気が利く人だと思いながらそれを受け取ると、志摩はごく自然に私の隣に腰を下ろした。私より大分早くに走るノルマを終えていた志摩は既にもう涼しい顔をしており、悔しいような羨ましいような複雑な気持ちになる。勿論男女の差はあるだろうが、この男と私の実力が大層掛け離れているのは目に見えて分かっていた。分かっているからこそ、どうしようもなくて、悔しい。 「志摩って、なんか体力トレーニングとかしてる?」 「まぁ、男やしジョギングくらいはな。…、体力ないん気にしとるんか?」 「そりゃ気にします」 整いつつある呼吸を繰り返しながら、私も志摩の隣に腰を下ろした。志摩はそんな私を横目で見て、少し考えるようなそぶりをする。その表情を見て、この男の真剣な顔は嫌いでないと思った。 「んー、ジョギングはオススメせんなぁ。女子やし危ないんやから真似すんなや」 「…わかってるよ」 「でも俺、は今のまんまでも十分やと思うんやけど…あ、嫌味やないで?俺らの学年は男ばっかやし気になるやろうけど、男と女の差は埋められんもんがあるやん」 「そ、うだけどさ…」 十分だと言われて嬉しい反面、それ以上はどうしようもないと言われた気がして口を閉ざした。どうしようもないと分かってはいる、女の私が男の志摩に体力で敵うはずなどない。それでも、それでは悔しいのだ。そう思いながら眉を寄せて縮こまると、志摩はそんな私を見て頬を掻き小さく唸った。 「あんな、誤解せんといてほしいんやけど、」 「ん?」 「俺は京都出身やし、なんちゅーか…京都はわりと残っとるんよ、女は男が守る存在やっていう思想がな。せやから俺は、そない気にせんでもええと…思うんよ」 「…うん」 「俺はお前が頑張っとるの知っとるし、運動神経自体はええやん?それで補える、てほどこの世界は甘ないけどな。でもそれはなりの、武器になると思うで。なんなら俺がお前のこと守ったるさかい、体力つけるより武器磨きぃ」 「うん、…うん?え?」 じんとする志摩の言葉にそのまま相槌を打とうとするものの、世間話とも取れる流れの中で聞こえた言葉に意識を引っ張られた。思わず聞き返すように志摩のほうを振り向くと、志摩は先ほどと変わらない涼しい顔をしたまま「せやし、」と言葉を続ける。 「俺がお前のこと守ったるて」 「…わお。なんともダイナミックな守護宣言ですこと」 「いつでも夢はでっかく持つべきやん」 「え、もしかして本気?」 「おん、超真剣なドストレート告白なんやけど」 「嘘だ」 「なんで即答なん…嘘やないで」 だって、志摩が私を好きとか。ありえない。校内一モテる男と言っても過言ではない彼が。好き?私を?そんな馬鹿な。笑っちゃうよ、と思いながら「ハハハ」と乾いた笑みを漏らした。途端に「何笑っとんねん」と志摩に怪しい視線を向けられる。 「自分の身は自分で守るよ」 「守らせろや」 「ハハハ。笑っちゃう」 「何がやねん!気持ち悪いでお前!」 「えっねぇちょっと志摩ほんとに私のこと好きなの?なんなのこんな気持ち悪い人好きなの?えっ?」 「だぁっ揚げ足取るなやアホ!せやし俺はが好、」 「あ、集合だって」 「最後まで言わせろやァァ!」 120428 |