「蝮ィ!知らんか?!」
「ハァ?!なんであてが知っとるんや!」
「くそっどこにおるん?!見かけたらすぐ俺んとこ来ぃて言っといてや!」
「うっさいわ申!!…………、志摩行ったで」
「…ありがとうございます、蝮さん」

物陰からごそごそと這い出ると蝮さんの呆れたような表情が見える。遠くのほうで柔造さんが私の名前を連呼する声が聞こえて、溜息をつきながら額を押さえた。なんということだ、こんなに大声で探されたならばもう出張所内に隠れ場所がないじゃないか。

、あんたなにしたん?あんなに志摩怒らせるなんて」
「…え、へへ…ちょっと…」
「まぁ何でもええけど、あのうるさいのはよなんとかしてや」
「…できるかぎり尽力します。蝮さんありがとうございました!」
「あっコラ、!」

蝮さんに呼び止められるけれどそれを無視して新しい隠れ場所を探しに行く。道行く人たちに「、お前なにしたんやぁ」「柔造さんものっそい怒ってはるでぇ」と声を掛けられてそれには苦笑を返しておいた。とりあえず、一刻も早く安全な隠れ場所を見つけなくては。

そう思いつつ廊下を左折した途端、反対側からやって来ていた人物と思いっきり衝突して「ぎゃっ?!」と奇声を発してひっくり返ってしまった。勢いのあまり私は後方に数メートルぶっ飛び、ゴツンと良い音と共に頭が床に打ち付けられる。

「すまんっ大丈夫か?!…やないか!」
「じ、柔造さん?!」
「おいコラ逃げんなドアホ!あっ、頭!」
「ぶへっ?!」
「あ、すまん」

衝突した相手が柔造さんだと分かった途端に私は這ってでも逃げようとするが、四つん這いのまま背中を向けた矢先に片足を捕まれて、そのまま逃げようとしていた私は顔面を床に打ち付けた。後頭部を打った後は顔面である、なんなんだ、もう。

顔面を打ち付けてそのまま微動だにせず俯せになっていると、柔造さんが慌てた様子で引き起こしてくれた。もう逃げようという気にはなれずされるがままになっていると、どうやら柔造さんは私が後頭部を打ち付けたのをよっぽど心配しているらしい。なでなでと私の後頭部をさすりながら、「これ以上アホになったらどうすんねんドアホ!」と怒鳴られる。

「じ、柔造さんがそっちから向かってくるのがいけないんですよ!」
「なんやて?!もともとはが最初に逃げたんが原因やろ!」
「逃げるに決まってるじゃないですか!そもそもなんで追いかけて来たんです?!」
「お前が俺の団子食うたからやん!」
「私が食べたんじゃありませんって!」
「…じゃあ誰が食うたんや」
「…さっき来てたお客様」
「出したんは誰や」
「…私」
「やっぱやんドアホ!」

お互いに床に座ったまま言い合っていたら柔造さんにバシンと頭をはたかれ、痛いですって、と愚痴を零す。先程私が後頭部を打っていたのを思い出したのか、柔造さんは「もー!!」と自棄になった様子で私の後頭部をさすった。アホはどっちだ。

「ほら、見してみ!たんこぶ出来てるかもしらん」
「い、いいですって大丈夫です!」
「あかん!頭打ったんは俺のせいやし!」
「…自覚はあるんですね」
「あぁもう、つべこべ言わずに見せぇ!」

途端に無理矢理ぐいっと柔造さんに引き寄せられ、気付けば私は柔造さんの胸の中にいた。柔造さんはぶつくさ言いながら私の後頭部を見ているようで、適当に結っておいた髪はいつのまにか彼によって解かれている。あまりにも急に密着した体制になったので緊張して動けずにいると、やがて柔造さんがぽすんと私の頭を軽く叩いた。

「後ろはたんこぶできとるな。顔面は?見事に打っとったやろ」
「そ、そっちも額打っただけです」
「ま、大丈夫やと思うけどちゃんと冷やしときぃや?」
「…はい」

立ち上がった柔造さんは私を立たせてから、最後に「しゃぁない、さっきのはチャラにしといたる」と再びぽすんと頭を叩いてからこの場を去って行った。私は頬を膨らませながらなにがチャラにしといたるだ、と思いつつ一応お礼を告げておく。おあいこさまや、という意味でひらりと振られた柔造さんの手を見つめながら、彼の後ろ姿を見送った。

最後に軽く叩かれた場所をそっと撫でる。そこにはまだ微かに、柔造さんのぬくもりが残っているように、思えた。




lambency




120603