「あの、菊さん」 ひょっこりと襖から顔を出したのは、数日前に私の家にやってきた姪のだった。 自分に姪がいるなんて初耳だったし、第一、私のような国家に姪というものはない、と思う。 もしあったとしても、国家の姪ならばその姪も国家のはずだ。 しかし上司に聞くと、の国家についてはうやむやにされ、国家らしく会議や仕事をしているところも見かけない。 そんなわけで、姪といっても私との関係がいまいちよく分からないのだが、 どういうわけか上司に「まぁいいから一緒に暮らしてやってくれ」と言われたので一緒に暮らしている。 本当なのかは分からないが、私の姪とならば断れない。 別に食べる口が減っても増えても特に支障はないし、私自身の生活上、困るようなこともない。 しいて言えば、私が会議などで家を空けるとき、その姪が数日間ひとりっきりになってしまうことが心配なのだが。 まぁなんとかなるだろう。 「どうかしましたか、?」 「……一緒にお買いもの、いってもいいですか?」 おずおずとした声に、にっこりと微笑む。 上司やご近所さんに対して礼儀正しくて博学で、私の姪だからなのかいつもにっこりとした微笑を容易くうかべている、 しかし私に対してはありのままの彼女でいてくれる。 一緒に暮らして数日だが、のことはわりと理解したつもりだ。 これでも自分は、空気を読むのと等しいくらい他人の感情や表情には敏感だと思っている。 そして今の彼女は“礼儀正しく博学で、にこにこしているいい子”ではなく、“”だ。 「いいですよ、一緒に行きましょう。ちょっとそこらのスーパーに、お夕飯の買い出しするだけですけど」 私の言葉には嬉しそうにこくりと頷くと、「ちょっと待っててください」と言って私が用意したの私室にぱたぱたとかけていった。 女の子なので、すこしお金をかけてかわいらしく仕上げた部屋は彼女にとても気に入ってもらえたようでほっとする。 掃除のために先日部屋に失礼したら、衣服掛けにはいつもが着ている白や薄紅や緋色を基準としたような着物や、 反対に普段はあまり見かけない濃藍や天色や翡翠の着物が掛けてあり、によによとしたものだ。 上司に頼まれたので面倒を見ようと思っていたら、思いのほか彼女が可愛くて心酔してしまった。 今度かわいらしい髪飾りでも贈ってあげよう。 そう思っていたら、薄紅の外出用の着物に着替え、髪にもしゃらしゃらと揺れる簪を挿したが戻ってきた。 その姿に目を和ませ、行きましょうかと玄関をくぐる。 涼しい風が頬を掠め、そのきもちよさにほう、と息を漏らした。 夏だといえど夕方は涼しいものである。 はというと、たいそう嬉しそうな様子で私のぴったり横をついてきた。 あぁもう、かわいすぎる。 「今日の夕飯は何がいいですか?……と言っても、あまり豪華なものは出せませんが」 「き、菊さんが作ってくれたものならなんでも……」 なんてかわいらしいことを言うんだろう、この子は。 思いがけずほころんでしまった口元に手を当てると、思いのほかにやついていたのが分かる。 まったく、さすがの私も姪には弱いのだろうか。 「では、今夜は竜田揚げにしましょうか。醤油もみりんも片栗粉もまだ切れていませんね。――お肉とお魚、どちらの竜田揚げがいいですか?」 「えっと……鰹がいいです」 「では鰹を買うことを忘れないようにしませんとね」 そこまで話したところでスーパーに着いた。 自動ドアをくぐると、外の気温との違いがはっきりと分かり、冷たい空気が一気に肌に触れる。 一瞬が震えたのが目に入り、ほっこりと口元を和ませた。 そして買い物かごを手に持つと、そろそろとが寄ってきて「も、持ちます」とかご取っ手に手を触れる。 「では、お願いします。まずはお野菜のほうから回りましょうか」 「は、はいっ」 090820(菊夢っていうわけじゃないですが、これだと菊夢だとしか言えない…でもちがうんだ…菊は保護者…。 aph夢は、夢主中心でみんなでほのぼのしてます。なのでお相手とかいないに等しくなるかもです) |