「…お留守番、ですか?」 えぇ、と申し訳なさそうに肯定すると、は午後のお茶のときのための和菓子を作っていた手を止め、にこりと笑って分かりました、と言った。 が私の家にやってきてから2週間が経ったが、私にしてみればまだ2週間しかたっていない。 やはり、数日間もひとりにするのは心配だなぁと思いながら台所を後にした。甘い香りが少し名残惜しい。 明後日から、数日かけての世界会議がフランスさんのところで行われると上司から聞いたのは何日か前だった。 フランスさんのところは日本から遠く、丸1日かかってしまう。 それに数日間にわたる世界会議となれば、どうもを連れていく気にはなれなかった。 彼女はおそらくなにかの国家だろうが、上司からは詳しく聞いていないし自身からも何も聞いていない。 気になるところだが無理して聞くものではないだろうし、も体調を崩していないところをみると今のところ彼女の国は安泰しているようだ。 (ここはひとつイギリスさんにでも聞いてみますかね……?しかしのことは私もちゃんと認識してますし……) イギリスさんが私の家に来たときに居ると言っていた座敷童子とかの類とは違うはずだ。 は生身の人間というか国家というか、そういったちゃんとしている“ひと”である。 明後日からの世界会議のときにアジア周辺のひと達にそれとなく聞いてみようか、 と考えていると、が緑茶の入った急須とゆのみ、それから先程台所で作っていた和菓子をお盆にのせて持ってきた。 「菊さん、そろそろお茶にしませんか?」 「えぇ、いいですね。では縁側に移りましょうか」 お庭ももうすっかり夏の終わりですね、というの風情に満ちた声が聞こえる。 それに簡単に相槌を打ちながら、縁側に腰かけた。 そしてがゆのみへ緑茶を入れている間、先程の考えを再開する。 は外見から見てヨーロッパの生まれではなく、黒い髪と瞳を持つ生粋のアジア人だと分かる。 最近アジアで新しい国家が生まれたとも聞かないし、中国さんが新しく誰かを子分にしたという噂も聞かない。 もしかしたら香港さんや台湾さんと同じようなものなのでしょうか、と首を小さくかしげる。 香港さんや台湾さんは、中国さんの一部である。もしかしたらも、アジアの誰かの一部なのかもしれない。 「菊さん?……どうかしました?」 「え?あぁ、なんでもありませんよ」 の声にはっとすれば、がゆのみを私に差し出していた。 それをなんでもない風を装って受け取り、ほう、と詰めていた息を吐く。 世界会議があると、どうも自分自身を追い詰めがちになってしまうのかもしれないが、最近疲れていた。 やはりヨーロッパのひと達と会うのは疲れるからだろうか。 「餡の和菓子ですね、かわいらしい」 「あ、ありがとうございます」 黄色の餡と白の餡でできているこれは向日葵だろうか、ともったいなく思いつつ楊枝で切り分けて口に運んだ。 そういえば、とイギリスさんとリトアニアさんが餡の和菓子を褒めていたことを思い出し、明後日の世界会議に持っていこうかと考える。 あのおふたりは可愛らしいものがお好きだからなぁ、と頬を緩めた。 「……明日の早朝には家を出ますが、お見送りは結構ですよ。朝ご飯は作っておきますので」 「す、すみません、面倒かけっぱなしで……」 「いえいえ、貴女を預からせていただいた身ですからね。しかしお昼からはご自分でなさってくださいね?」 菊さんほどすごいものは作れませんけどね、と控えめに笑うの頭をくしゃりと撫でる。いとおしい。 「会議から帰ってきたら、ゆったりできる温泉でも行きましょうか。最近どたばたしてますからね」 「は、はい、……いき、たいです」 は引っ越しとここでの生活に慣れるためにこの2週間は忙しかったはずだ。 私も世界会議があるということでなかなかに仕事が詰まっていたのでなかなかゆっくりできていない。 世界会議から帰ったら、一度水入らずでゆったりしたい。 ぬるくなりかけた緑茶をすすると、お茶の葉の匂いがふわりとした。 ちょっと前まではひとりでこの香りを楽しんでいたのだが、今は一緒にお茶をしてくれる姪がいる。 そのことになんとも嬉しく思い、上機嫌でお茶を飲み干した。 |
090823(菊しか出てきてない…。「エリュシオン」=「楽園・天国・安らぎ」と考えてくださると幸いです。 夢主は日本のことを「菊さん」と呼びますが、それ以外は「フランスさん」「イギリスさん」と呼びます。 これは相手を国として接するときは国名で呼ぶからです。ただの友人としてのお付き合いになると、「フランシスさん」「アーサーさん」になります。 日本とは親のような保護者のような関係なので、国としてではないので「菊さん」と呼びます。) |