芯から火照っているような熱い身体はふわふわとした高揚感に包まれていたが、意識が混濁しているほどではなかった。はぁ、と息を吐くと白い靄がふわりと漂っては昇るようにして消えてゆく。雲がかかっているため月は朧げにしか見えなかったが、広間から漏れる光のおかげで視界に困るようなことはなかった。そうでないにしても、夜目は利く方なのでどうだっていいのだが。

新年は数刻前にとうに迎えていたが、広間の騒ぎは収まるどころか更にうるさくなってきていた。私はもうみんなの盛り上がりについて行けずにこうやって縁側に出てきているが、お酒が入っているせいか高揚感はなかなか落ち着かない。特定のなにかを見ているわけではなくぼうっと辺りに視線を彷徨わせながら、冷たい夜風が酒を抜いていくのをのんびりと待っていた。そして明るい広間を背にして膝を抱えて涼んでいると、かちゃかちゃという陶器の音とひとり分の足音が聞こえてくる。


「頭は冷えたか」

「うはっ?!斎藤くん?」


その足音にくるりと首だけ動かすと、途端にくしゃりと前髪を撫でられる。斎藤くんのことなので酔っているというわけではないと思うが、それでもこの行動は普段の彼ではありえないことだ。頭を撫でてくるなんて珍しい、しかし彼にお酒が入っていることは確かだと思うのでそのせいだろうとひとりで勝手に納得する。撫でられてくしゃくしゃになった前髪を撫でつけて直していると、斎藤くんは私の隣に胡坐をかいて座り、2人の間にふたつの猪口と徳利を置いた。目を丸くしてそれらを見つめると、斎藤くんは「年明けくらいはいいだろう」と言って徳利を猪口に傾ける。斎藤くんは私が女だということを心配しているのか、普段はあまり私がお酒を飲むことを奨励していないのだ。無言で斎藤くんから猪口を手渡されて戸惑いながらも薄くはにかむと、これまた珍しく微笑んだ斎藤くんと猪口を掲げた。


、今年もよろしくな」

「……こちらこそ」


そう短く告げてお互いに猪口の中身を飲み干した。酌をしてくれたのは斎藤くんなので濃度はあまり高くないはずだが、酒は喉を熱く潤しながらおりてゆく。とりあえず今年になって一番最初の発見は、斎藤くんと飲むお酒もなかなか悪くないということだと思った。




新春に誘はれて





101203(2011年の年賀状企画夢でした。最初、なぜか原田夢になりそうだった…あぶないあぶない。←)