「うわ、酒くさ……!」


仕事を終えて屯所に戻ってくると、草木も眠る丑三つ時だというのに数人の幹部達が酒盛りをまだ続けていた。夕方に私が仕事に出て行くころに丁度始めていたのだから、一体どれほど飲んでいるのだろうか。襖を開けた途端香るのは、きつい酒のにおい。そして潰れて転がっている数人と、いまだに酒を飲み交わしているのが数人。


「お、じゃねぇか!お前も飲むか?」
「遠慮するよ、新八さん。……どれだけ飲んだの?平助くんはともかく、斉藤くんまでもが潰れてるって」


ごろんと転がっている人の中には平助くんや斎藤くんの姿もあって、斎藤くんまでもが酔い潰れているそのことに驚く。普段は潰れることなんてめったにない彼のこんな姿は珍しい、そう思いながら斎藤くんの隣にしゃがんだ。斎藤くんはいつもマイペースでお酒を飲むし、自分の限界というものも分かっていたはずだ。なにより、こんな姿をみんなに晒すことを斎藤くんは嫌がるに違いない。なのにこうして酔い潰れて眠っている。なにがあったのだ。


「沖田が斎藤にキツい酒飲ませたんだよ、そしたら一発でこの様だぜ」
「いやいやいや笑いごとじゃないし……!ていうか犯人の沖田さんはどこいった!」
「沖田なら随分前に部屋に戻ったぜ。今頃自室で飲んでるんじゃねぇか?」


斎藤くんに飲ませるだけ飲ませたら逃げたってか、そう沖田さんを恨み思いながら、斎藤くんの顔にかかっている髪をさらりとかきあげた。癖っ毛の斎藤くんの紺色の髪の下にあるのは、赤い顔をした斎藤くんの可愛らしい寝顔。こんな無防備な彼を見るのは珍しいと、まじまじと観察してしまう自分に少し呆れた。

斎藤くんとこっそりとお付き合いを始めて結構経つが、彼のこんなところはあまり見たことがない。今まではどちらかというと、酔った私を斎藤くんが介抱してくれていたのだ。そのたびに彼もこんな気分だったのだろうかと、苦笑して思う。手を滑らせて斎藤くんの頬を撫でた。斎藤くんの寝顔は普段から想像できないほど可愛くて、いとおしいと思う。


「ん……」
「あ、斎藤くん?起こしちゃったかな」
「……、か?」
「うん。大丈夫?だいぶ飲んだって聞いたけ、どぉぉっ!?」


目が覚めたらしい斎藤くんはゆっくりと起き上がると、私へと視線を向けてそのまま私へと抱きついてきた。いや、抱きついてきたというよりも倒れてきたと言ったほうが正しい。思いっきり男性一人の体重を預けられて、しゃがみ込んでいた私は勿論それを支えられるはずはなく、体制を崩して後ろに思いっきり倒れこんだ。ごつん、ともろに打つ頭に「いたぁ!」と思いっきり声を上げる。


「斎藤、そういうことは部屋戻ってからにしろって!な!ここ、みんないるから!」
「いやいや左之さんそういう問題じゃなーい!」
「……、俺は……」
「斎藤くんも、話は聞いてあげるからまずはそこをどきなさい!誤解されるから!」
「今更誤解など……俺とはいつもこうして、」
「ちっ違うちがう!左之さん新八さん違うから!!」


幹部の数名だけに明かされている私と斎藤くんのお付き合いの関係。それは男所帯である新撰組で唯一の関係であり、それゆえなにかを気を遣ってもらったことも多いのだが。斎藤くんの呟きを聞いて引きつった笑みを浮かべる左之さんと、更に赤くなってうろうろし始めた新八さんからのいたたまれない視線にこれは完全に誤解されたと思い知った。

確かに私も斎藤くんももうそんなに幼いというわけではない、いつまでも手を繋いだりとか抱きしめあったりとかそれだけに留まらないことも、ある。けれどいつもというわけではないし、そう数があったわけでもない。とんだ爆弾発言をかましてくれたものだと、斎藤くんをじとりと睨んだ。


「斎藤くん、いいかげんどいて!そろそろ精神的にも体力的にも限界!」
「……俺はまだまだ、余裕だ」
「斎藤くんのことは聞いてないから!酔っ払いはさっさとどけ!」
「そのように……邪険に扱わなくても、……」
「ぎゃ!」


すり、と頬を撫でられて思わず声を上げると可愛くなんてない奇声が漏れた。しかしそれを期に斎藤くんはごにょごにょと言葉になっていない言葉を呟き、それと同時に私に圧し掛かってくる重さも重くなる。これは、もしかしなくても。


「おーい、斎藤くん。……寝た?」
「……寝て、な……ど……、……」
「……寝たね。こんな体勢のまま、寝たね」


苦い笑みを漏らしながらなんとかこの体制から抜け出そうとするが、やはりひとりの成人男性の体重が自分の上にあると身動きがとれない。それを見かねた左之さんが私を救出してくれて、それでやっと一息ついた。ごろりと再び転がされた斎藤さんは先ほどと同じように可愛らしい顔をしてすやすやと眠っている。私の気も知らないで。

その後、左之さんと新八さんにさんざんからかわれて結局私も朝まで飲む羽目になり、ふたつの頭痛の種に悩まされるのは、また後日。





とある華酔い月夜





110522(友人にリクエストされて書いたはいいけどなにこのメッセージのないぐだぐだなお話…!となった。甘いか嫉妬がいい、てゆわれて甘いのを書こうとしたけどこんなんに。やっぱ私これが甘いの限界やわ…。)