がいなくなった。王宮のどこを探しても見つからず、いつもなら半刻もしないうちに見付けることのできる彼女の姿がどこにも見当たらなかった。しかし家に戻っているわけでもないようで、それに王宮から外出する姿も見られていない。自分がの不在に気付いてから既に数刻は経っているが依然として見つかる様子はなさそうだった。王宮内を駆け回ると不審がられるので早足で廊下を進む。いくら探しても稀世はまるで消えたかのように見つからなかった。
「槐斗!いたか?!」
「いや、全然……」
「くそ、どこにいやがるんだよあいつ……!」
槐斗に手伝ってもらい2人での捜索をするがなかなか見つけられず、またあとで落ち合うことを約束してから再びを探しはじめる。先程の仕事場をこっそりと見に行ったらまだ今日の仕事は終わってないらしく、書物や資料が乱雑に机の上に広げられていたままであった。が無断で仕事を放棄するなんてするはずがないと王宮の人なら誰もが思っているはずであり、の上司が彼女の長時間の不在に気付いて不審がるのは時間の問題であった。そろそろ大事になってくるかもしれない、と冷や汗を垂らす。
「どこだよ…………」
図書室も執務室も中庭も後宮も、そのほかに思い当たるところも全て探したつもりなのに見つからない。もしかしたらどこかに閉じ込められていたり誰かに連れ去られたのかもしれないという可能性も考えたが、どちらもありえないような気がした。は幼いころから王宮で勉強がてら勤務していたが恨まれるようなことはしていないはずだ。それにどちらかというと自分のほうがその対象に近いだろうし、と思いながらどこに探しに行こうかと考えながら適当に廊下を進んだ。
すると近くの倉庫からかすかにカタッと扉が動く音がしてびくりと肩を揺らしながら振り向く。そこは小さな資料室で小さすぎるあまり使用頻度が少なく、カタカタと小さく動くそれは普段なら風の音かと聞き過ごしてしまいそうなほど小さかった。しかし今はのこともあって半信半疑でそっと「……?」声をかけてみると、ガタッとひときわ大きく音が鳴り慌てたような信じられないといったような涙声の返事が返ってきた。
「……こ、光夜?光夜、いるの?!」
「?!おまっ……ちょっと待て、いま開けるから!」
慌てて扉のそばに掛かってた鍵を鍵穴に差し込み、ガチャガチャと鍵を回して扉を開ける。途端に扉が向こう側から押し開けられて部屋からが飛び出し、そのまま扉の前に立っていた俺に抱きついてきた。急なことにの身体をささえられず、彼女を守るように抱きしめながら尻餅をつくがはそんなことは気にしていないようでぐすぐすと涙を流している。
「おまえ、こんなとこでなにしてたんだよ?!すごい探したんだからな!」
「わ、私だって、資料取りに来ただけの、つもりなのに……っ。熱中して資料探してたら、たまたま通り掛かった衛兵に間違って鍵を閉められちゃったんだもん……!」
「はあ?!なにやってんだよ馬鹿!」
珍しくぼろぼろと泣きながらはいきさつを説明した。そんなに困惑しつつもこれまでの捜索の苛立ちを八つ当たりする。それでもは泣き止むどころかさらにぎゅっとしがみついてくるので、どうしようかととりあえず頭を撫でてやるとやっと泣き声が嗚咽に変わった。
「こ、こわ、かった……」
「……馬鹿」
「だって……!窓もないし、扉は開かないし……時間も分からないし、誰も見つけてくれないし……!」
「こんな小さな資料室にいると、誰が思うか!」
そう怒鳴ると、は何も言わずに小さくなって俺の胸に顔を埋めてきた。やれやれと溜息をついてから心配したんだからな、と短く告げて力いっぱいを抱きしめる。しばらくすると腕の中から小さな声で謝罪とお礼の言葉が聞こえた。
壊れるくらいに強く、抱き締める
「なに廊下のど真ん中で熱々やってるんだ……?」 「う、わあああっ槐斗?!」 「お、槐斗。すまん、見つかった」 「いや呑気に報告してないで離してよ光夜!」 「一体どこにいたんだ?」 「この資料室に閉じ込められてた。盲点だったなー」 「私の話を聞けよ!」
110121(またもや光夜夢!最近だいすきだ!幼少時代は書くのが楽しいです。)
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