「8番が10番に頬にキス!」

「あら、私8番」

「10番って私だわ」

「……女同士か」


リリーがひとつ年下のエルザの頬にキスをするのをソファーに座りながら見ていた。男女ペアならおもしろかったのになぁと思っていると、ひゅるりと手の中からクジが引き抜かれてジェームズの前に置かれている箱にひとりでに戻っていく。周囲の人にはやし立てられながらリリーとエルザがもとの場所に戻っていくと、ジェームズが杖でくるりと大きく空に円を描いた。それに導かれるようにしてクジがゲームに参加している人たちの手元にスッと流れるようにしてやってくる。番号を確認すると14番。どうやら王様はリーマスだったらしく、どうしようかなぁと朗らかに微笑みながら腹黒いことを考えていそうだと思った。

今現在グリフィンドール寮の談話室で行われているのはかの有名な王様ゲームであり、主催者は見ての通りジェームズだ。どういう経緯があってかは知らないが、急遽始まったこのゲームには4年生が多数とその他に下級生や上級生がちらほらと参加している。私もジェームズに誘われて一応ゲームに参加しているのだが、番号が多いのと幸運が重なってこれまでに番号を指名されたことはなかった。番号が一致したらなにをやらされるか分かったものではない、とそれに嬉しく思いながら番号があたった人たちの盛り上がりを少し離れた場所で観賞している。これもこれで悪くはない、見ているだけでも十分楽しかった。

そう思いながら相変わらず中心から少し離れたソファーでリーマスが番号と命令を告げるのをわくわくしながら見ていると、近くにふと新しい気配を感じる。振り向くとシリウスがクジを手にしながら私の方へと来ていた。よう、とシリウスが右手を小さく上げたのでそれに答えるように私も小さく右手をあげる。


「、まだなにもやってないんじゃねぇか?」

「うん、まぁね。ラッキーだと思ってるよ。そういうシリウスは先程はご愁傷様で」

「……まぁな」

「『11番と13番がキス!』でシリウスとシェールがキスだもんねぇ、でもやっぱハンサム同士だったしなんか美しかったよ」

「美しかったってなんだ美しいかったって!」

「こう、禁断の愛みたいな?」

「馬鹿言うなっ!っていうか思い出させるなよ……!」

「いやあれはきっと伝説に残るよ、私はそう信じてる。いいじゃん、ホラ、きっと将来懐かしく思うよ?学生時代には馬鹿なこともやってたなぁって」

「こんな思い出いらねぇ……!」


悲痛な表情になって本気でそう告げるシリウスに笑ってやると頭をはたかれた。地味に痛い。本気でシリウスを怒らせると後が怖いと分かっているのでこみ上げてくる笑いをなんとか堪えていると、シリウスは私が座っているソファーの手すりの部分に腰掛けてきた。

私だってひっそりと好意を抱いている相手と他の男がキスをするなんてちょっと複雑な心境だったが、面白かったのでまぁ良しとする。シリウスが他の女の子とキスをするよりかはマシだったかもしれない、と心の奥で思っている自分に苦笑した。そしてそんなことを思っていると、王様であるリーマスがやっとのことで命令を下す。「じゃあ、14番が3番に思いっきり平手打ち」。


「げっ!俺3番……」

「……ま、まてまてまて!私14番なんだけど……!」


シリウスと顔を合わせて苦い表情を浮かべる。王様の命令は絶対で、例外はない。もちろん変更も。周りの人たちも今の私とシリウスの声を拾って面白そうにはやし立てており、友人たちに手をひかれてゲームの中心部へと嫌々引きずり出された。周りの野次馬からは「番号逆じゃなくてよかったねぇ」、「おっあの2人?これを機に痴話喧嘩とかすんなよー」、「うわぁシリウスにビンタって……でもならできるわよね……絶対」などなど様々な声が投げられる。ちょっと待て最後のはなんだ私ならできるって一体。いや、やるけどさ。私と同じく中心に引っ張り出されてきたシリウスと視線を合わせると、お互いに困ったような呆れたようなどうしようもない表情を浮かべた。


「……恨みっこ無しだよ?」

「おま、マジで思いっきりやるつもりか……?!」

「王様の命令は絶対、そういうゲームだし……それに手ぇ抜いてやり直しするよりかはちゃんと従ったほうが一発で済むかと」

「……もういい、さっさとやれ」


私だって好意を持っている人に平手打ちなんてやりたくないに決まっている。しかしこれはゲームだ。そう、ゲーム。ずるずると引きずるよりもさっさとやってしまおう、そうしよう。そう思いながら呼吸を整えて数歩シリウスに近づいた。手を伸ばせば届く範囲で足を止める。


「……シリウス、ごめん!」


最後にそう謝罪してから右手を振りかざした。思わず目をつむる。次の瞬間、大きな音が談話室に響いた。




王様ゲーム

「ちょっとちょっとリーマス、これであの2人の関係がごたごたになったらどうしてくれんのさ」
「大丈夫だよジェームズ、シリウスはああ見えてマゾヒズムだから」
「そういう問題?」
「……2人とも、あんまり遊ぶとシリウスにキレられるよ……」



101118(なぜこの2人の王様ゲームにあえて平手打ちを選んだのか自分の頭が分からないです。ラブラブ要素がひとつもない(…)。王様ゲームはもっと甘いゲームじゃなかったっけ…?)