優雅なワルツが流れているダンスホールの隅でノンアルコールの液体が入っているグラスを傾けると、濃厚な果実の甘みが喉を潤した。色とりどりのドレスを着た淑女や婦人、スーツを着込んだ貴族たちが遠目から俺を見ているのがありありと分かる。しかし向こうから話しかけてくるようなことはなく、勿論こちらから話しかけるつもりなどさらさらない。つい半年前までは親身に接してくれていた人たちも、まるで人が入れ替わったかのように俺に近づいてくることはなかった。それはそれで嬉しいことなのだが、果たして両親はなぜこんな自分をこのブラック家主催のクリスマスパーティーに出席させたのか。ブラック家現当主の長男である自分がホグワーツでグリフィンドールの寮を選んだことはブラック家の汚点にしかならない。てっきりこのパーティーには出席しなくても良いと思い、けれど弟のレギュラスには会いたかったので帰ってきたというのに。


(まぁこんなパーティ、出席してもしなくても今の俺にはてんで関係ないけどな……)


実の父であるオリオンが、弟のレギュラスと並んで親戚たちに挨拶をして回っているのが遠くに見える。つい半年前まではオリオンの隣はレギュラスではなく自分だった。けれどそれはレギュラスを憎んでいるわけではなく、申し訳ないという気持ちの方が強い。今までの自分のようにレギュラスはオリオンに期待され、教育され、自分が辿るはずだった道を自分の代わりに歩まさせられる。きっとレギュラス自身はそれを苦痛だと思っていないだろうし、それを願っていただろう。けれどどんなに家族や親族が嫌いでも、血の繋がっている弟のレギュラスだけのことはいとしかったから。少し後悔の念が心をくすぶる。今更、どう思おうとも遅いのだけれども。


「暇そうね、シリウス」

「あぁ、アンドロメダ。嬉しいことこの上ないな」


鮮やかなグリーンのドレスに身を包んだアンドロメダが話しかけてくて、俺の隣に並ぶ。アンドロメダは従姉であると同時にスリザリンに所属しているホグワーツの先輩でもあるのだが、ブラック家でありながらも純血主義者ではないので好きだった。アンドロメダの姉妹であるベラトリックスとナルシッサを遠くに見つけ、コソコソとなにかを囁き合っているのを見て苦笑する。


「いいのか?俺と話していたことが親にばれると後々面倒だろ」

「平気よ、お母様もお父様もまだ来ていないもの。それにベラトリックスは忘れっぽいし、ナルシッサは臆病だわ」

「酷い言い草だな。……どうだ?俺の評判は」

「ふふっ、ブラック家史上最悪の跡取りらしいわよ、あなた。そのうち家系図からも除外されるんじゃないかしら?」

「アンドロメダも人のこと言えないだろ。噂で聞いたぜ?テッドと付き合ってるんだってな」

「情報が早いわね。ま、お互い気をつけましょう。……あぁ、そういえばさっき、あなたの友人から言伝を預かったわ」

「友人?このパーティに来てる奴でか?」

「えぇ、どうやら来ているらしいわよ、彼女。ツリーから一番近いバルコニーにいます、って」

「彼女?だから誰だよ」

「・」

「っ、早く言えっ!」


アンドロメダのくすくすというからかいの含まれた笑みを聞きながら慌ててその場を後にする。このパーティに来ている友人が誰なのか思いつかないでいたが、アンドロメダからその名前を聞いて瞬時に理解した。ホグワーツで同じ学年のグリフィンドール生である・の実家は特殊な家系であるため、彼女自身はグリフィンドールなのだがブラック家とは縁がある。実際、2年ほど前のクリスマスパーティーでも彼女の姿を見ていたので今年来ていてもおかしくはない。

すぐにアンドロメダに言われたツリーから一番近いバルコニーに向かい、外に通じるガラス張りの扉を開ける。そこには俺より少し小さい人影が手摺りにもたれており、「」とそこにいるであろう友人の名前を告げるとその人影はぱっと顔を上げた。シリウス、と嬉しそうな声が聞こえる。手摺りの近くに駆け寄ると、やわらかい風が吹いて彼女の来ているレモン色のドレスが鮮やかに揺れた。


「悪い、今さっきアンドロメダから伝言聞いて……」

「私こそごめん、ちょっと……シリウスには近寄れない雰囲気だったから、アンドロメダ先輩に伝言お願いしちゃった」

「いや、あいつのことは気にしなくていいけど。……お前の親は?」

「中で挨拶してまわってる。当分は来ないよ」

「お前はついていかなくていいのか」

「ブラックさんだけには挨拶してきたけど、あとは疲れるから逃げてきちゃったよ」


苦笑するに合わせて小さく笑みを漏らす。彼女らしい。そう思った時、ダンスホールから流れてくる曲がふと変わった。お互いに顔を見合わせて、笑い合う。どちらともなく手を取り合った。


「踊れるんだろうな?」

「淑女のたしなみ程度には、ね」

「上等だ」


エスコートには慣れている。にやりと笑みを零すと、少し恥ずかしそうなのへらりとした笑みとかちあった。やっぱり訂正、今日パーティーに来てよかった。




笑いあう

(やばい、すごい幸せかもしんない……!)
(うはぁ、シリウスやっぱりエスコートうまいなぁ)



101123(アンドロメダでしゃばりすぎかも?笑 アンドロメダはすきだなー、いいひとだと思う。何気に1万打企画の「運命なんてそんな不確かなものは」の続編、的な?)