「いったい私がどれだけの時間待っていたと思う?!山崎の部屋は隣だし帰ってきたら気配で分かるからさ、部屋で楽しみに待っていた自分がいま思うとすごく馬鹿らしくて阿呆らしい!用件は近所の子供たちにやるお菓子を買い溜めしときたいっていうどうでもいい内容だけど今日の非番逃したらしばらく休みないしそれに偶然山崎の非番も重なったから一緒に市中に行こうって言ってたのにさ、この約束したのは結構前だったけど私は一瞬たりとも忘れたことなんてなかったし楽しみにしない日なんてなかったそれが単純な乙女心だよね?!行けなくなったなら私に一言残してくれれば私だって一人で買い物ぐらいできるのに山崎それさえもなかったし誰かに伝言することもなかったみたいだしさっ、そりゃあ監察という役職上非番とはいえど急に仕事が入ることなんて珍しいことでもないし私も仕事があることを言ってくれたならそんなことじゃ怒らないよじゃあしょうがないねって心から言える!」
でもっ、私が怒ってるのはそこじゃないんだよ!そう言ってからさんは湯呑みに入っていたお茶をぐいっと飲み干した。私はそんなさんの姿に苦笑しながら湯呑みに少しぬるくなってきたお茶を足すと、さんはそれにわざわざお礼を告げてから再び火蓋を切ったように早口で吐き捨てるように言葉を告げはじめる。
「公私混同はしない主義だしその辺のわきまえはちゃんと出来てると思うよ、だから山崎に仕事が入ったことに怒ってるわけじゃないし山崎が忙しいことくらい私だってよく分かってるだから無理しなくていいよって言ったのに『絶対に時間を作る』って山崎が断言するからそこに私は怒っているの!守れもしない約束を取り付けた山崎とそれをうっかりと信じてしまった私自身にっ、くそう山崎を信じて純粋に待ち焦がれていた私が一番の馬鹿だよちくしょーっ!」
「……さん、」
「千鶴ちゃんは優しい子だからこんなこと露とも思わないかもしれないけど私は醜い人だから嫌なこといっぱい思っちゃうんだよ、そして後悔したり怒りをぶつけたりいろいろしているうちに一番嫌で馬鹿なのは自分だって再確認しちゃうんだもう自己嫌悪の嵐だよなにがいちばんいけなかったの?!それは山崎であることは確かなのにそれにいちいち怒ってる自分もいけないんだよ、ねぇっもう意味分かんないし山崎の姿は今朝から見えないし!まぁいたとしても困るんだけどさっ!」
頭を抱えてぐおぉと唸っているさんに苦笑を向けながら冷や汗を垂らす。
一体どうしたものか、と今頃彼女と同じように後悔をしているであろう山崎さんを思い溜息をついた。
「ねぇっ千鶴ちゃんはどう思う?!一番いけなかったのは誰?!いつ?!どこ?!」
「えっ、えぇ……?!」
どう答えようかと思って言葉を濁していると、庭の木の陰の差す方向にはっとして立ちあがった。驚いて私を見つめるさんに申し訳なく思いながら土方さんから頼まれていた用事のことを告げると、さんはじゃあしょうがないねと言ってやっと落ち着きを取り戻して私を見送ってくれた。土方さんから用事を頼まれていたのは真実であるしそれを日が暮れる前には済ませたかったのだが、いかんせん後味は悪い。さてあのようになってしまった彼女をどうしようか、と思いながら土方さんのおつかいで市中の甘味処を目指して歩いた。店にあらかじめ注文しておいた接客用に出す菓子を受け取りに行ってほしいと頼まれているのである。
そんなことを考えながら甘味処にもうすぐで到着するというころ、目指していた甘味処に見知った人物を見つけて驚くと同時に口元をほころばせた。彼の装いがいつも着ている黒装束ではなく着物であるところを見ると、わざわざ監察の仕事の合間に着替えて訪れたのであろう。向こうは私に気づく様子はなく菓子が入っているであろう包みを大事そうに抱えながら私が来た道を進んでいった。そんな彼をそっと微笑みながら見送ってから、普段からお世話になっている甘味処の主人に声をかける。もうさんと山崎さんの心配はいらないだろうな、と思いながら土方さんから頼まれていたお菓子を受け取った。帰り道は来たときのように頭を悩ませずに軽い足取りで進む。守られなかった約束はきっと良い方向で彼女たちの関係を進ませることだろう。また今度じっくりとさんに今日のことを聞いてみなくては、と決意を固めながら新撰組の屯所へと帰った。
約束
「結葵、その……悪かった」 「な、なにが悪かっただよ山崎の馬鹿ーっ!しかも堂々と謝りにくるなよ!こっちこそ申し訳ないっていうのに!」 「う、埋め合わせするから!今度は、絶対に」 「お前の絶対はもう当てにならんと今回重々学習した!」 「……これ、詫び」 「えっ、お菓子っ?!やった!」 「……」
110117(怒涛の勢いで喋るのって息がつらそうだなあと書きながら思った…。← 既に恋人同士という設定ですー)
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