ひとつのベットに集まってお菓子を広げて、毛布をかぶったり枕を抱えたりしながら夜を過ごすのは初めてではなかった。お年頃の女の子なら誰もがするであろう噂話さ恋愛話に耳を傾けつつ、広げられているお菓子をちょこちょことつまんでいく。わたしは適当に相槌を打ちながら、気になる話だけは熱心に耳を傾けて、逆にどうでもいいと感じた話には会話にすら入らないで黙々とお菓子を食べたり考えごとをしたりしていた。

「レイブンクローのあの子がリーマスのことが好きだって噂よ……あ、そういえば、ジェームズってば毎日リリーにラブアタックしてるけどほんとうのところはどうなのよリリー!」

そんなことを流し聞きしながら個包装されたチョコレートを口に頬り込む。中にアーモンドが入っているが、これは入っていないほうがおいしいのではないのだろうか。そう思いながら話の中心であるリリーをちらりとみると、やめてよというように右手をひらひらと振っていた。あんなの相手になんかしてないわよ、という言葉に、かの有名な悪戯仕掛人となかなか仲の良いわたしはジェームズの日々の奮闘を存じているので、心の中でジェームズご愁傷さま、と呟く。やだぁもう嘘ばっかり、とリリーをからかう友人たちの声を聞きながら、そばにあった普通のレモン味のキャンディーの包みを破って口に入れた。うん、酸っぱい。

「そういえばのそういった話聞かないけど、どうなの?」
「え、わたし?」
「ほらぁ、好きなひととかいるんじゃない?」

急に振られた話に、口の中で飴玉をコロコロと転がしながら首を傾げた。いままで自分のそういったことについて話したことがなかったので考えてもみなかったのだが、わたしに好きなひとなどいるのだろうか。しばらく頭の中を整理しながら考えてみたのだがたいした人物は浮かばなかったので、いないよ、と告げるとまわりからは残念そうな声が聞こえてきた。

「まぁ、わたしは結構恋愛に関して興味がないというか、なんというか」
「……珍しいわね。わたしたち、もう5年生だっていうのに」
「よく言われる」

相変わらず飴玉をコロコロと転がしながらそう答えると、リリーが気を利かせてくれたのかいいじゃない、それよりもセスタはどうなのよ、と話題を変えてくれた。それにこっそりと感謝しつつ、わたしはセスタの恋愛話に耳を傾けた。最近できたボーイフレンドの惚気やら、今度はローラの惚気やらに耳を傾けて数十分、そろそろお開きにしようかという友人の言葉にみんな素直に頷き、おやすみと交互に言葉を交わして灯りを消す。しかしなかなか眠気が襲ってこないわたしはベットの上で適当にごろごろしていたのだが、しばらくしてから隣のベットで眠っているはずであるリリーの声がひっそりと聞こえてカーテンをかすかに開けた。

、まだ起きてる?」
「うん、なんだか眠れなくて。リリーも?」

カーテンの向こうには同じように身を起してカーテンをかすかに開けているリリーがいた。そしてどちらともなく談話室にでも行こうか、とベットから抜け出して談話室に向かうと、暖炉の前のソファーに腰を下ろす。いつもは先輩に占領されている場所なのでそこに座ったのは初めてで、ソファーの柔らかさと温かさに少し感動した。さすが冬の特等席。

「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
「んー、なに?」

リリーにしてはちょっと遠慮したような話し方に違和感を覚えつつ、適当に返事を返した。暖炉のおかげでぽかぽかと身体は温かいが、眠気は襲ってくることがなく目は冴えたまま。どうやったら眠りにつけるだろうかと考えながら、次のリリーの言葉を待った。

「……ちょっと、思ったんだけど」
「うん?」
って、なんていうか……恋愛に対して、億劫……いや、違うかな。恐怖みたいな、不安みたいな……そんなだったり、する?」

その言葉に驚いてリリーのほうを見ると、リリーは何を思っているのかは分からなかったが目を合わせてはくれなかった。どう返事するか迷ってから、結局、素直に返すことにする。しかしその返し方にまたずいぶんと悩んでから、やっと口を開いた。

「どれもちがう、かな。億劫でも恐怖でも不安でもない、なんか……言い表せないような、そんなかんじ」
「……なんだかねぇ、ずっと前からそれっぽいなぁとは、思ってたんだけど」
「なんで?」
、恋愛話になるとすぐに黙るもの。自分のことは話そうとしないし、聞いても答えてくれないし。……まぁ、べつにいいんだけどね」

わたしのことを意外によく見ているらしいリリーに驚きつつ、言い当てられたことに少しだけ動揺する。他の女の子がかっこいいと噂するシリウスやジェームズたちをかっこいいと思わないことはないけれど、付き合いたいだとか愛してるだとか、そういう感情が生まれてくるわけではなかった。たまに女と男の差に愕然とすることはあったがそれだけだし、それにわたしは悪戯ばかりしているシリウスやジェームズより、物静かでおとなしいリーマスと話すほうが好きだ。まぁそれはリーマスと話すことが好きなのであって、リーマス自身が好きなわけではなかった。確かに好意はあるけれど恋愛になると話は別だ、まったくもってリーマスはタイプじゃない。

「確かに人生において、恋愛することは必須条件だと思うしわたしも今はそうじゃなくても、いつかはきっとするんだと思う。ただ、今はなんていうか……そういう気分じゃない、っていうか。いや、わたしも気分で恋愛したいとかそういうわけじゃないけどね」
「……まぁ、現に私も付き合ってる人とかいないし。なりになにか考えがあるのなら、いいんじゃないの」

だといいな、と小さく呟くように返す。なんとなく、リリーに話してよかったと思った。



夜中の本音




090915(な に 夢 な ん だ !見事に誰がお相手なのか分からない…+リリーなのかな)