「俺、お前のこと好きなんだけど」

誰かに告白されるってどんなかんじなんだろう、なんて年頃の乙女みたいなことを考えたことがないわけではない。しかしやはりこれが現実というものか、相手がいなかった。わたしは今年で4年生になったのだが、恋愛感情での好意を持っているひとなんていないし、ましてやこんなわたしに恋愛感情を抱いてくれるひとなんていないだろう。空想に浸って考えるだけ無駄だと思っていたのだが、まんざらそうでもなかったらしい。生まれて初めて、告白というものをされた。かもしれない。

「……わたしも、シリウスのこと好きだけど」

告白されたのかもしれない。けれど絶対自分の勘違いか空耳だと即座にその思いは切り捨てた。告白されたとしてもそれはただの友情としての好きであって、恋愛の好きではない。だってそうとしか思えない。わたしにこんなことを言ってきたのが、かの有名なブラック家の御曹司であるシリウスなのだから。純血で高貴で名高いブラック家の長男であるシリウスが、混血で特に有名でもなんでもない平々凡々なわたしを好きなわけがない。いや、友情としての好意は自意識過剰かもしれないけれど持たれているかもしれないが、恋愛としての好意を持たれてるなんて、そんなありえないはなし。

そんなことをぐるぐると考えながら確かめるようにシリウスにそう返すと、「っだぁーーっ!」とシリウスはむしゃくしゃしたように声をあげた。どうしたのかと吃驚してぽかんと呆けていると大人しくなったシリウスに急に腕を引かれて身体ごと引き寄せられる。巨木に寄りかかって座っていたものだから、わたしはバランスを崩してとっさに木の幹に掴まれていないほうの手をついた。シリウスはどうも悪気はないようで謝る気配はなく、しかしわたしの思考はそれどころじゃない。こんな真剣なシリウス、たぶん初めて、みる。

「……あのなぁ!俺にとっては一世一代の告白だったんだぞ!ただの友情としての好きをこんなふうに伝えるやつがあるか、俺はそういう意味でお前に言ったんじゃねぇっての!」

「え、あ?ご、ごめん、なさい……?」

なんだかよく分からないがとりあえず悪いことをしたらしいので謝っておいた。まだ腕が掴まれたままなので動くことができず、しかしシリウスの顔を直視できるわけもなくふよふよと視線を泳がせる。ま、まて、急なことに現実に頭がついていけてない。先程シリウスに怒鳴られるようにして言われたことを復唱するように頭の中でゆっくり唱えようとするが、しかしその前にシリウスに、と名前を呼ばれてそれを遮られた。

「お前も知ってるだろうが、俺は短気だ。いま返事言え」
「あ、あの、シリウス、頭が、ですね、こんらん、してて、」
「……今言え」
「え、ちょ、ぅわっ……ん、」

だめだ、言葉は頭に入ってくるけれどそれが理解できないというか、いや理解はできているのだがなんだかもうわけが分かんない。頭がぼうっとしてもうなにも考えられそうにない、とそれだけは理解したとき、シリウスの手がわたしの頬に触れた。シリウスの親指がわたしの唇を撫でるその時間は長かったのか短かったのか、よく分からないけれどキスされる、と本能的に思う。そして待ったをかける余裕もなく、唇が塞がれた。



突発事件



091020(急な告白と無理チューが書きたかったとか笑。最近糖度高めな甘いものを求めている気がするので、自然と書いてるとそうなってしまう…)