ふと目が覚める。小さく身じろぐと、後頭部の方からシリウスのくぐもった声が聞こえた。シリウスを起こさないように注意しつつ身をよじってシリウスの腕の中から脱出する。ベットからそろりと抜け出すと、朝の冷たい空気がひやりとこたえた。もうすぐ秋になるこのごろはまだ日中は汗ばむが、さすがに朝はもう涼しい。わたしのものかシリウスのものか分からないけれど、適当に放ってあったシャツをとりあえずと思いひっかけた。サイズ的にシリウスのものだとわかったけれど気にしない。生身の肌にへたりとシャツが張り付いて下が透けてしまうが、まぁいいかとそのままにした。今更だしきっとシリウスも気にするまい。そのとき、ベットからシリウスの小さな欠伸が聞こえた。起きたのか。

「おはよー、シリウス」
「……はよ」

まだとろりとしている瞼をこすりながら声をかけると、同じく寝ぼけたようなシリウスの声が返ってきた。きょろきょろとあたりを見渡して、ばらばらと散らばっている2人分の衣服を拾う。魔法を使ってしまえば楽なのだが、あいにくと杖は部屋のどこかに脱ぎ捨てられているローブの中なのでひとつひとつ手で集めることにした。丁度足元にあったネクタイを拾ったときにベットのきしむ音がする。シリウスがベットから起きたのだろうが、過剰反応してしまう自分に苦笑した。拾ったネクタイの裏の名前を見る。わたしのものだ。

「あー……、それ俺のシャツ」
「……うん」

これだろ、と上半身はなにも着てないシリウスが足元にあったシャツを拾ってわたしにむかって投げた。ばさりと投げられたシャツは正真正銘わたしのもので、適当にお礼を言うとシリウスのシャツから着替えようかとボタンに手をかける。しかしシリウスはそれを制止して、シャワールームを指した。

「ベタベタすんだろ、浴びてこいよ」
「んー……うん、わかった」

スカートを拾ってから寝起きでのろのろとする足取りのままシャワールームへと向かう。男子寮のシャワールームを使うのは初めてだが女子寮と同じようなものなのだろうか、とどうでもいいことを考えながらシャツのボタンをはずした。適当な棚に衣服を置いて、シャワールームに入ると温度調節をしてから身体に暖かい水をかける。ささっと髪と身体を適当に流すと早々とシャワールームを後にして、タオルで身体を拭きながら身体中のところどころにある赤い痕に顔をしかめた。シャツを着るとそれは全て隠れたので安心すると、スカートのチャックを上まであげる。皺がついているがそれは魔法でなんとかするかと思い、髪の雫が垂れるので肩にタオルを巻いたまま部屋に戻るとシリウスは杖をひゅんひゅんと振って無言呪文をいくつか施していた。

「お先にどうも」
「おう」

声をかけると、シリウスはわたしの方を向いて杖をひとふりした。とたんに髪が乾いたので乾燥呪文か、と魔法の上手さと的確さに舌を巻く。椅子にわたしのローブがかけられていたのでポケットから杖を取り出すと、スカートやシャツ、それからローブに向かって順に杖を振った。とたんにピンとのびた衣服に満足すると、念のためにと消臭呪文もかけておく。

「先に談話室行ってろ、俺もすぐ行く」
「ん、分かった」

部屋をさっと見渡してわたしの痕跡がないのを確かめると、部屋の扉を開けて廊下をそうっと見渡した。朝早いので、他の生徒はまだ起きてもいないだろうが、用心するに越したことはない。ジェームズから透明マントでも借りておけばよかったと思いながらコソコソと移動しつつ、誰にも見つかることなく無事に談話室へとたどり着くことができた。



after a last night




パタン、と部屋の扉がしまる音が聞こえる。まだ朝早いので誰にも見つかることなく談話室までたどり着けるだろうと思いながら、消臭呪文を部屋全体にかけた。ルームメイトの満月から3日しか経ってないのでまだ医務室のベットで寝ているリーマスはきっと気付かないだろうが、もし気付いた時のことを考えるといろいろ面倒なので念には念を、と厳重に稀世との痕跡を消しておく。最後にベットのシーツをきれいなものにすると、やっと終わったと杖を下ろした。ふう、と息を吐くと着替えを持ってシャワールームへと向かう。シャワールームも後始末しなくては、と頭の隅で思いながらズボンのベルトをカチャカチャと外した。

初めてではなかったし回数はそんなにしていないもののそういう関係になってからは随分と経っている。しかしそれでも毎度ながら思うのだが、どうしては事後でもあんなにドライなんだろうか。べつに「きゃっシリウス……お、おはよう……!」とかいう初々しいものや恥じらいの感じるものを求めているわけではない。第一そんなことを言うじゃないのだが。それでも普通の日と変わらないぼーっとした表情で挨拶をし合うのもなんだかおかしいのではないか、というよりかはちょっといつもと違うが見てみたい。……こんなことを思う俺は変態なんだろうか。

そんなことを考えながらシャワーを頭から浴びると、稀世の爪に引っかかれた背中の傷がぴりっと傷んだ。大雑把に身体中を流すとてきぱきと魔法でシャワールームの排水溝や匂いをきれいにする。シャワールームを出てからは制服を着て緩くネクタイを締め、髪を杖をひとふりして乾かすと、椅子にひっかけてあるローブをばさりと羽織って早々と部屋を後にした。談話室でが待っている。



091011(事後、はまだ平気…なラインですよね!わたしのヒロインはどんなときでもドライなのできっと事後でもドライです。そしてそんなヒロインにもんもんとやきもきしているシリウスがかわいい笑)