木漏れ日の中
「シリウスシリウス、いま暇かな?」
「いんや、超忙しい」
「いや暇でしょあんた絶対暇でしょ、ちんたら雑誌読んでる暇あったらちょっと頼んでいい?」
「いやだから忙しいって」
「あのね、レポートで使いたいんだけど、変身術の本……題名忘れたんだけど、結構難しいやつ。あれ、シリウス持ってるでしょ?貸してくれない?」
「……図書室にあるだろ、全く同じやつ」
「それがねー、私と同じことを思った人がいるのか既に貸出中なんだよね……なかなかマイナーな本のはずなのにな……」
「知らねぇよそんなの、だからって俺に頼るな」
「えぇそんなこと言うなよシリウス、ここはさ、ほら、なんとかのよしみで!」
「いやそのナントカの部分が大事だろ」
「あ、突っ込みどころはソコなんだ?」

ね、お願いお願い、私人一倍レポート仕上げるのに時間かかるからさ。顔の前で手を合わせて苦笑しながらそう言うとシリウスはその理由が分かっているからだろう、嫌そうな顔をしたけれど結局は「しゃーねぇなー」と言ってソファーから腰を上げた。ごめんねありがとう、と声をかけるとシリウスは呆れたような顔をして、俺もついでに一緒に仕上げちまおっかな、と呟きながら男子寮へと消えていく。その後ろ姿を見送りながら結局は一緒にレポートを仕上げることになるのだろうとこれまでの経験で分かりきっていた私は、シリウスが先ほどまで読んでいた雑誌をぱらぱらと適当に眺めながら近くのイスに腰を下ろした。

男の子の雑誌はあまり目にしたことはないので新鮮だったが、中身は女の子の雑誌とさして変わりはないように見えた。シリウスの私物なのだろう、隅に折り目がついているページがいくつかあってそこのページを追いかけるようにして捲っていく。

お財布や小物、ふぅんシリウスはこういうのが好きなんだ。意外、でもないけれどやっぱりファッションとか気にするんだなぁ。私なんか自分で雑誌を買うことすらあんまりないのに。あ、このジャケットいいなぁ、シリウスじゃなくて私が欲しい。うわ、女の子への喜ばれるプレゼント特集とか、うわぁうわぁこんなページあるんだ!で、でも女の子の雑誌にも男の子のいろんな特集とかあるしなぁ、普通か?あーそういえばこの間セスタの持ってた雑誌にも男の子に喜ばれるプレゼントの特集みたいなのやってたなぁ。うん、やってたやってた。なるほど、世間でカップルが破局しない理由はこんなところにあったのか、さすが時代を駆ける雑誌だな。

「ほらよ、本。……ってそれ俺の雑誌っ」
「ねぇねぇシリウス、私指輪がいいな指輪」
「お前なんかにあげる予定はないっつうの!……いや、そもそも誰にもあげるつもりなんてないけど」
「宝石とかは邪魔だからいらないよ、でも彫刻が凝ってるやつがいいな。シンプルでマリンっぽいのが欲しい」
「いやだから人の話聞けよ」

聞いてるよ、と返事をしながら本を受け取り、雑誌をシリウスに返して彼から手渡された本の表紙を眺める。ああこんな題名だっけ、とタイトルとともに内容も思い出しながら鞄の中から手さぐりで羊皮紙と羽ペンを引っ張り出した。目次をざっと眺めて参考になりそうなページを開き、綴じてある部分を強く押してクセをつける。そのまま机の上に無造作に置くと、シリウスも他の参考書に私と同じような行為をしていた。

「あー面倒くせぇ……お前このあと用事ある?」
「いんやロンリーガールな私はおもいっきりフリーですが、それは私への嫌味かい」
「じゃあちゃっちゃと終わらせてそのへんブラブラしようぜ」
「おうよ!昼寝もしたい!」
「昼寝……まぁいいか。じゃ、そゆことで」
「やりますかぁ」


***


「君らって仲いいよねぇ」
「あー、それは……、……俺たち仲いいのか?」
「うん?なぜそれを私に聞く」

廊下や中庭をしばらくブラブラと散歩してから、直射日光の当たらない場所でごろんと寝転がって日向ぼっこをしていると、いつの間にか隣にジェームズがいて3人で仲良く日向ぼっこをしているという傍から見れば怪しいことこの上ない状態になっていた。いつ私の隣に寝転がったのかは知らないが、ジェームズの第一声に驚くことなくスムーズに返すシリウスを見ると彼は気づいていたのだろうか。だからといってジェームズが急に現れることは日常茶飯事だったので私も別段大げさなリアクションをすることはなかった。そんなことしたら私の両脇にいる2人に馬鹿にされるに違いない。

そんなことを考えながらシリウスのほうに視線を向けるとばっちりと目があって、どちらともなく苦笑に近い笑みを漏らした。私とシリウスは仲がいい、と私は勝手に思っている。今年の始めのころは寮でも男女関係なくみんなが仲が良かったのに、最近になって男女の間に急に壁ができたのを感じないわけにはいかなかった。それはしょうがないこと、だけれど依然私とシリウスの間に壁はない。それは友情を超えた絆があるからとか友達以上の関係だからとかそういうのではなくて、ただお互いがそういうことを気にしないだけだと思う。

「まぁ……入学前から面識あったしな、仲いいっちゃ仲いいか」
「入学前から?」
「……私の家の事、話したことなかったっけ?」
「ない、と思うけど」
「んーとね、私のお祖父さんとシリウスのお祖父さんが親友。昔から家族ぐるみで仲良かったのよね。ほら、私の実家ってアジアの東……極東だからさ、イギリスに滞在するときはいつもブラック家にお世話になってたし。ブラック家に仲睦まじくしてもらっていろいろ……まぁいろいろ、助かってるし」
「それにの家って寮は家系に関係ないからな。そんな家と繋がりあると、こっちもこっちでまぁいろいろとな」
「寮は家系に関係ない、って?」
「えーと、お父さんはレイブンクローで、お祖父さんはスリザリン、曾お祖母さんが……グリフィンドールなんだけどね。まぁ、こういうこと」
「……みんな違うんだ?」
「そ。いろんな寮の人間を輩出している不思議な家、って聞いたことないか?」
「あー、……ある、ような、ないような?」
「ヨーロッパでも純血の家の奴らは大体知ってるんじゃないか?そんな家滅多に、っていうか家だけだろうし」
「まぁ理由は聞かれても分かんないから東洋の神秘ってことで」
「ははぁ……」

東洋の神秘、と隣でジェームズが呟く声が聞こえた。実は様々な寮の人間を輩出していることに理由はあるらしいが、私はそれを知らないし「東洋の神秘」と言えば大抵の人は納得してくれる。それで納得してしまうヨーロッパの人たちは日本をなんだと思っているんだ、と本気で思う時があるが一度友人に問い詰めてみたらなんともいえない答えが返ってきたのでそれ以来トラウマとなり聞くことはできていない。私のことに関しては何事も解決してしまう魔法の言葉、「東洋の神秘」。喜ぶべきなのか出身国の知名度の低さに落胆すべきなのか、なんて眠気にうとうとしながらどうでもいいことを思う。

「なぁー」
「うーんシリウス、東洋の神秘ってどんなかんじなんだろうね」
「なんだソレ。っていうか、俺、ひとつ思うことがあるんだけど」
「……なんだい」

今7月だし、このままここで寝たら熱中症になると思う。シリウスのその現実的な言葉にそれもそうだなと思いながら私はのろのろと起き上がった。



100603(「君らって仲いいよねぇ」とその理由が書きたかったがゆえに生まれた話。最後のほうは意味分からん。…。)