フレッドとアンジェリーナが付き合った。その嬉しい報告を直接アンジェリーナから聞いたのは昼食のときであり、には一番最初に伝えたくて、と照れたように、けれど幸せそうに微笑むアンジェリーナはその瞬間だれよりも可愛かったと思う。アンジェリーナのルームメイトとして今まで彼女の恋愛相談をやってきた身としてはこれほど嬉しいことはなく、素直に心からのおめでとうを告げるとアンジェリーナは本当に幸せそうにありがとうと返してくれた。また詳しい話は夜にということでアンジェリーナを迎えにきたフレッドに彼女は譲ったものの、これから寂しくなるなぁとフレッドと腕を組んで大広間を去っていくアンジェリーナの後姿を見つめる。 女の子の中では一番仲良しでよく行動を共にしていたアンジェリーナであるが、恋人ができたとなれば今まで通りにはいかないだろう。 アンジェリーナは恋人ができたからといって私を放っておくような人ではないが、かと言って彼女に恋人を差し置いて私と一緒にいてもらうのもそれはそれで私の気が引ける。難しいなぁ、と頬杖をつきながら苦笑を漏らした。フレッドにアンジェリーナを取られたとまでは言わないが、近い感情が心の中をぐるぐると渦巻く。ちょっとの羨ましさと寂しさだ、折り合いをつけられないものではない。アンジェリーナ以外にも友人はいるんだし、と思いながら食後の紅茶をひとりで楽しんでいると、入口の方から私の幼馴染であるリーがやってきて挨拶をしてから私の目の前に座った。 「聞いたか?フレッドとアンジェリーナの進展」 「うん。ついさっき、アンジェリーナから直接ね」 リーはまだ食事を取っていないらしく、皿にローストビーフとプディングを取ると早速それにぱくつき始める。決して下品ではないその食いっぷりに、男子の食事をしている姿とは見ていてなんて気持ちがいいのだろうとつくづく思った。私も女子にしては食べる量が多いほうだと思っているが、さすがに男子ほどではない。ふと気がづいてリーの空になったゴブレットにかぼちゃジュースを注ぐと、リーは私に簡単に礼を告げてからそれを手に取って続けた。 「俺も部屋でジョージと聞いたんだけど、まぁ、一波乱あってさ…」 「一波乱?…あぁ、ジョージもアンジェリーナのこと好きなんだっけ」 双子っていうのも大変だよねぇと頬杖をついたまま零すと、リーは食事をする手をぴたりと止めて「…それ、マジで言ってんの?」と私の顔をまじまじと見つめながら告げる。私はそんなリーの反応がむしろ意外で、何か変なことを言っただろうかと思いながらこくりと首を縦に振った。私がアンジェリーナといるとき、ジョージがアンジェリーナへとちらちらと視線を送っていたことを私は知っているのである。なまじっか私はジョージに好意を抱いていたのでショックを受けたものの、アンジェリーナの人柄を思うとまぁ当然かと自分で勝手にこの想いには終止符を打っていた。卑屈になるわけではないが、ジョージが私なんかに友情以上の感情を抱くことはないに決まっている。私はリーの幼馴染で、アンジェリーナの一番の友人。ジョージの中の私はそれ以上にも以下にもならないのだ。この私がジョージの視線に気付いたくらいなのだ、リーがジョージの気持ちに気付いていないはずはないのだが、と思いながら私も訝しげにリーと視線を合わせる。 しばらくリーと無言で見つめあった後、リーが「こりゃダメだ」と頭をがしがし掻きながら呟いたのが聞こえた。だめって、何が、どういうことよ。そう思うものの、聞いてもどうせ答えてはくれないだろうと分かりきっているので口には出さずにいるあたりは、幼馴染という関係の賜物だろうか。 「あー、俺、ちょっと部屋に戻るわ」 「そう。傷心中のジョージによろしくね」 「…あぁ」 リーから少し間を置いて返ってきた苦笑に私は首を傾げつつ、どこかぐったりしている様子の彼を見送った。リーの姿が大広間から消えてから冷めてしまった紅茶に視線を戻すと、なんとも情けない自分の顔が移って自分で苦笑を漏らす。なんなんだろうね、みんな。いろんな物事が急速に変化しているような気がするけれど、その中で周りの変化に追いつけず、ひとり取り残されているように感じた。 |
「ジョージ、おい、ジョージ!」 「…んだよ、うるさいな」 慌しく部屋に帰ってきたリーの声に、不機嫌さを露わにしながら返事をする。不貞寝をするつもりで引いていたベットの周りのカーテンを払うと、なんとも微妙な表情をしたリーがそこには立っていた。リーは未だ不機嫌そうな俺の表情を見て苦笑を漏らしつつ、向かい側のフレッドのベットに腰掛けながら「大広間でと話した」と口を開く。俺はその名前に小さく反応しながらも、それがどうしたという表情でリーを見た。 「、ジョージが失恋したと思ってるらしいぜ」 「…はぁ?!」 「いいか、の中でのお前はこうだ。フレッドとアンジェリーナが付き合って、アンジェリーナが好きだったお前は傷心中で落ち込んでる」 「誰がアンジェリーナを好きだって?!」 「お前」 「俺が好きなのはだ!」 大声で言ってしまってから、はっとして口を右手で塞ぐ。そのままうろうろとリーの瞳から視線を外すが、相変わらずリーが苦笑しているのはなんとなく感じた。ちょっと待ってくれよ。そもそも俺が不機嫌オーラ全開だったのも、このが絡んでいるのだ。彼女が悪いわけではなく、原因はフレッドなのだが、どうもこうもこの状況はなにかヤバイ気がする。なにかが何なのかは分からないが。 この不機嫌の一端はフレッドのアンジェリーナとの交際の報告にあった。いや、俺はアンジェリーナに恋心を抱いていたわけではなく、フレッドとアンジェリーナが付き合うようになったということ自体はとても喜ばしいことである。だがその後に続いたフレッドのお節介な「お前もそろそろとくっつけよ!」という言葉に俺はブチ切れたのだ。そんな簡単に言いやがって、双子と言えど俺はお前ほどこういう運びが得意なわけでもなければ上手なわけでもなく、しかも相手はあのだぞあの!この幼馴染のリーでさえが「を落とすのはちょっと手間がかかるかも」というほどの恋愛下手で鈍感娘である彼女を、この俺が「よっしゃやってやるぜ!」と電光石火で落としにいっても花火のごとく儚く粉砕されて散りゆくのが目に見えているのだ。そういうわけで幸せで溢れているフレッドに八つ当たりをしながら暴れてリーにもとばっちりを喰らわせたのはまだそう昔ではない。 「つまり、ジョージの小さなアタックにもは知らん顔ってことだ」 「ちょっと前までは脈アリっぽかったんだけどな…」 「俺もそうだと思ってた、というかあれは確実にもジョージのこと好きだった。俺が断言する」 「…じゃあなんで俺はアンジェリーナが好きだと思われてんだよ?!」 「それはこっちが聞きたいっつーの!」 呆れたように答えながら、リーはフレッドのベットにぼすんと背中から倒れた。少し前までのと俺はなかなかイイ雰囲気だったと自分でも思うが、でも今のは俺がアンジェリーナを好きだと思っているらしい。なぜだ。まったく分からん。口元に指をあてながら考えるが、いくら考えても答えは見えてこなかった。 「お前勘違いさせるようなことでもしたんじゃないのか?」 「…覚えがないな」 「あーあ、ジョージの春は遠いぜ、まったく」 それはこっちの台詞だ!と思いながらリーの足をゲシッと蹴る。小さく悲鳴をあげたリーに、俺はさきほどの続きだとでも言うように八つ当たりを繰り返した。彼女が手に入る日はまだまだ遠い。 130225(八つ当たりされたリーが誰よりもかわいそうである。若い恋愛書くのたのしいです。) |