「シリウスみーっけ」 「おわっ……お、お前か」 急にひょこっと現れた顔にびっくりして、今まで読んでいた本から手を離してしまう。そのせいでパタリと本が閉じてしまい、しおりもはさんでいなかったためにどこまで読んだか分からなくなってしまった。その出来事に「あぁぁ……」と肩を落としつつ、へらへらとした相変わらずのを見た。 「なんか用か?」 「んーん、べつに用はないんだけどね」 そう言って、トサッと俺の隣には腰を下ろす。軽やかなその動きに合わせて流れる髪は、いつもは首の後ろでひとつに結っているのだが、今はに下ろしているだけだった。珍しい髪型に驚きつつ、少し雰囲気が変わったとなんとなく思う。 「用がないと会っちゃだめ?」 「そんなわけじゃねぇよ」 しょうがないから本のことはひとまず今はあきらめるか、と思って本をかばんにしまっていると、はこっちを向いてちょっと申し訳なさそうに言ってきた。どう返そうかと一瞬迷ってから言うと、少しぶっきらぼうすぎたかと後悔する。そう?と聞いてくると、は肩にかけていたかばんを下ろして、俯きながら膝を抱えて後ろの壁にもたれかかった。なにかあったのだろうか、と思って声をかけようとすると、はっとしたようには顔をあげる。 「ご、ごめん。読書の邪魔しちゃったし、怒ってる?私いないほうがいい?」 「や、そういうわけじゃねぇけど。……っていうか、俺はここにいていいのか?」 「は?いや、シリウスがここにいるから私もいるんだし、私は全く構わないけど」 やだなぁと小さく笑いながら、はこてんと頭も壁にもたれかかった。後頭部が痛くなるぞ、と言おうかと思ったがやめる。それよりもなんだか、気になることがあった。いつもはリリーと一緒に行動してて、俺なんかどうでもいいはずのが、わざわざ俺の元を訪れて(ちょっとおこがましいかもしれないが)俺と居たいなんて言うのは、ちょっとおかしい。いや、言ってしまえばかなりおかしい。 「……なんかあったんだろ」 言ってしまってから、「なんかあったのか」と言えばよかったと後悔した。決めつけてしまってどうする俺。しかしは図星だったようで、小さな苦笑が聞こえた。また俯いてしまったので、多少声が聞き取りにくい。 「……んー……そりゃああったけど、たいしたことじゃないんだ」 「……のわりには、沈んでるだろ」 「……うん、ちょっと」 あはは、と乾いた笑いが聞こえる。たぶん無理して笑っているんだ、と思うとどうにかしなくてはと思うが、かける言葉が見つからなかった。なんて不甲斐ない。 「……あ、あの、さ」 やっと絞り出したような、かすれるような声。なにか精神的にキツイのだろうか、と思いながら次の言葉を待つ。今日は金曜で午前中しか授業がなく、その間はいつもと様子が変わらないように思えた。なのできっと、なにかあったのなら午後なのだろう。しかし、午後から俺はずっとここにいたのでなにがあったのかは知らない。第一、ここにいなくてものプライベートにまで干渉する権利は俺にはなかった。恋人でも親友でもなく、ただの友達だという俺にはそこまで許されてはいない。 「……いまからいうこと、笑わない?」 「笑わねーよ、……だからさっさと言え」 「な、なんだよその言いかたー。ちょっと私のなかでは重要なことなんだけど」 「はいはい真面目に聞いてるから。……ほら、言ってみろって」 ぽん、と肩を叩くとは急に黙りこんだ。今では顔を俯かせてしまったので、どんな表情をしているかは分からない。さっさと話せよな、とちょっとイライラしてきたがなんとか理性で押しとどめた。頑張れ俺。ここで俺がキレたら意味ないじゃないか。 「……友達だと、私は思ってるひとにね、ちょっと……突っぱねられた、っていうか」 はぁ、という溜息とともにそんな言葉をが告げた。はグリフィンドール内でだけではなく、レイブンクローやハッフルパフにまで友人を持っている。俺からすれば、よくそんな大人数の友人と友情関係保ててるな、と思うのだが根っからのイイヒトであるにとってはそんな思惑はない。ただ、友達がたくさんいるのはいいことだよ、で片付けてしまうのがだ。 そんななので、友情面に対してはひどく敏感で繊細だと、いつだったかリリーに聞いたことがある。こんなに沈んでるのだから、よっぽど大切な友人だったのだろうかと、とりあえず言葉と内容を選んで聞いてみた。 「その友達、どうかしたのか?今まで仲良かったんだろ?」 「な、仲がよかった……っていうか、もしかしたら私が一方的に突っかかってた、みたいな……?でもお喋りとか勉強とかも一緒にしたし、授業でペア組んだこともあったし」 「……レイブンクローか?」 「んーん、スリザリン」 「……スリザリンだと?」 いろいろ面倒が起こるだろうから名前は言わないよ、と言ってからは立ち上がった。ローブについた乾いた土や草を軽く払うと、かばんを持ちながら「ごめんね、」と聞こえる。 「やっぱりシリウスに相談なんてするもんじゃないね。さっきのこと忘れて」 「え?あ、おいっ!」 待てよと俺が言う前に、はたかたかと小走りで俺のもとを去って行った。一体なんだったんだと思いつつも、やばいことしたかと顔をゆがめる。どっちにしろ、さっきのの友人のことに関しては俺はもう役立たずのレッテルを貼られてしまった。もう聞き出せない。 はぁ、と小さく溜息ついてから、先程かばんにしまった本を取り出した。不貞寝しようかとも思ったが、本の続きが気になるので読書することにする。しおりを挟まずに閉じてしまったのでどこまで読んでいたか分からず、まずはさきほどまで読んでいたページを探さなくてはならないことにもう一度溜息をついた。 |
090820(久しぶりの、シリウス夢。例のスリザリンの友人はセブルスのことです、たぶん。シリウス→夢主で、夢主は気づいていないです。夢主のために奮闘するシリウスとかかわいいなぁって思ってます。) |