いつもは人がたくさんいて時にはざわついている図書館も、クリスマス休暇中だからか今はひっそりとしていた。ときどきピンズ先生のコツコツという足音が聞こえるが、それ以外はわたしが本のページを捲る音しか聞こえない。しかしこの静かなひっそりとしている空間がわたしは好きだ。きっと生徒の多くは帰省しただろうし、残っている面々も図書室で本を読んだり勉強をしたりという考えはそうそう思いつかないだろう。なので図書室で読書にふけっているわたしは、相当の変り者であるといえた。自覚してるからまぁいいのだが。 そのとき、ひとつの足音がわたしに近づいてきているのを感じる。足音の響き方からピンズ先生ではないと理解できた。なら生徒の誰かなのだろうが、わたしがここにいることを知っているのはごく少数だけなので、なんとなくその人物を想像することはできた。同室であるリリーか悪戯仕掛人のシリウス、あるいはリーマスだという選択肢もなくはない。そこまで考えたところで、ひょいと本棚の影から人影が現れた。わたしの場所を正確に突き止めたことと一瞬目にした背格好で誰なのかは一目瞭然である。思った通り、そこにいたのは付き合っているシリウスだった。 「どうしたの、シリウス」 「……毎日飽きないな」 きっと読書に対してだろうが、そこには少しばかりの怒気も含まれているような気がしてやばい、と本能的に悟る。わたしはクリスマス休暇に入って5日目で宿題を全て終わらせ、それからはずっと図書館に籠りっきりだったのだ。思い返してみれば、クリスマス休暇に入ってから今日で1週間と2日経つが、シリウスと一緒にいた記憶はあまりというかほとんどない。シリウスもずっと悪戯仕掛人のみんなと騒いでいたし、わたしはこれ幸いとほったらかしにしてしまっていた。食事も取ったり取らなかったりでなかなか不健康な生活を送っているため、大広間で顔を合わせることもない。しまった、とここ数日を反省した。本を思いっきり読むことができたので後悔はしないが。せめてと思い、隣の椅子を引いて座るように促す。今からでもいい、シリウスと一緒にいたほうが身のためだ。 「他のみんなは?」 「リーマスとピーターはホグズミードに行ってる。ジェームズとリリーは談話室」 「……なんか怒ってる?」 「べつに」 いやそれ絶対怒ってるから。と思いながらもそう、と当たり障りのない返事をして本にしおりを挟んだ。リーマスとピーターはホグズミードでたぶんなにかの買い出しで、ジェームズとリリーは談話室でラブラブ満喫中、そしてシリウスはひとりほったらかしにされたわけだ。最近わたしもほったらかしにしていたこともあって、ちょっと拗ねているのかもしれない。いや、寂しがってるのか。どちらでもいいがシリウスもなかなかかわいいじゃないかと頭をよしよしと撫でたい衝動にかられたがここはぐっとこらえた。なんせスカートなので足が冷えるため持参していた薄い毛布の膝掛けをかけなおして、どうしたものかとシリウスをちらりと盗み見る。相変わらずかっこいいなぁ、なんて惚気のようなことを思いながらシリウスの横顔を眺めていると、急にシリウスが立ちあがった。 「談話室行くぞ」 「……き、急になんなの」 なんで急に談話室にいくのか意味が分からなかったが、そろそろ足が冷えてきて本気で寒いと思い始めたのでまぁいいかと腰を浮かせた。しおりを挟んだままの読みかけの本だけ貸出の処理をすると、他の本はシリウスが本棚へと戻してくれる。シリウスが本を返してくれているうちに毛布を畳んで魔法で小さくすると、それをポケットに入れた。貸出した本を鞄に入れて、わたしが座っていた椅子とシリウスが座っていた椅子をもとに戻す。鞄から特に物を出した覚えはないのだがざっと机を見渡して忘れ物がない確認すると、丁度本を戻してくれていたシリウスが戻ってきた。ごめんね、行こっか、と声をかけて鞄を肩にかけようとすると、その鞄を横からとられる。その鞄がシリウスの肩にかけられるのを見て状況を理解してから、淡く微笑んで歩きだしたシリウスの隣へと並んだ。こういうことをするから、シリウスのことを面倒くさく思っても嫌いにはなれない。ふふ、と小さく笑うとシリウスがこっちを向いた。 「なんだよ」 「いや、わたし愛されてるなぁって思って」 「あぁ、今頃知ったのか」 「嘘、前から知ってました」 後ろで組んでいた手に軽く触れられて、ちらりとわたしより10センチほど背の高いシリウスを見上げてからその手を取る。わたしの手はずっと図書館にいたからか随分と冷たく、そのせいかシリウスの体温がひどく温かく感じた。ぎゅ、と一度強く握ると頭上でシリウスが驚いたのがなんとなく分かる。そしてどちらからともなく、一瞬だけ指を離して一般に恋人つなぎと言われるやつにつなぎ方を変えた。クリスマス休暇中だからだろうが、人気が全くなくて図書館と同じようにひっそりとしている。コツコツと2人分の足音がやけに大きく廊下に響いていた。 「ほったらかしにしててごめんね」 「もう慣れた」 「あはは、わたし彼女失格だよね」 「それも承知で付き合ってくれと言ったのは俺だからな」 「うん、でもわたしは変わらないし変わるつもりもないよ」 「当り前だ、俺はそんなが好きなんだからな」 そりゃどうも、と答えるとシリウスは急に立ち止まる。どうしたのだろうかとシリウスの顔を見上げると、思いのほかシリウスの顔が近くにあった。一瞬なにがどうなっているのか焦ったが、シリウスが腰を屈めているのだと理解する。しかし、それよりも先にシリウスはわたしの耳にすいと唇を寄せて、は、と聞いてきた。そんな甘い綺麗な声で囁くなんて反則、と顔を赤らめながら思う。 「わたしもそんなシリウスが好きだよ」 そうやってさらりと愛を告げると、シリウスは数分前とは打って変わって機嫌をよくしたらしく、わたしの耳にキスをひとつ落としてから今度は唇に触れるだけのキスをした。 |
090915(かわいいシリウスと淡々としているヒロインを目指したらこうなってしまったという笑。わたし自身が結構ストレートになんでも言っちゃうほうなので、うちのヒロインも自然とそうなってしまう…。) |