![]() 「!変身術の教室こっちだって!」 「いっいま行くっ!」 パタパタと廊下に駆け足が響くが、それは私と友人のイリアの2人分だけではなかった。まだホグワーツに慣れていない、私たちと同じ一年生が教室の居場所を探してせわしなく廊下を埋めている。ある者は同じく急ぎ足の先輩に尋ね、またある者は廊下の壁にかかっている絵画の人物に尋ね。自分とそんなに背丈の変わらない彼等を横目に見つつ、イリアに示された方向へと彼女を追って駆け出した。 「オイ、そこのグリフィンドール一年生」 「えっ?」 廊下を走っていたら後方から大人びた男子の声が聞こえ、彼の指す人物に該当する者が近くに見当たらなかったので声をあげて振り向くと、そこには四年生の先輩であるシリウス・ブラックとリーマス・ルーピンがいた。かの悪戯仕掛け人として有名な彼等の名前と顔を覚えるのはとりわけ早く、何度か言葉も交わしているため向こうも私たちのことを知っているに違いない。五年生の彼等は一限目は空き時間なのか急ぐ様子はなく、リーマスはくすくすと笑みを浮かべながら私たちが向かおうとしていた方角とは逆の廊下を指で差した。 「変身術なんでしょ?マクゴナガル担当の教室はあっちだよ」 「えっ?!だって、絵画の誰かに聞いたらこっちだって!」 「騙されたな。正解はこっちだぜ」 青くなって返すイリアににやっと笑みを返したシリウスは、リーマスと同じ方向を指し示して言った。リーマスとシリウスは悪戯仕掛け人として名高いけれど、後輩にはいつも優しく素敵な先輩のでこれは悪戯ではないのだろう。なにしろ監督生でもあるリーマスのお墨付きだ、きっと大丈夫。私は隣で「なによ!あの絵のオッサン!」といきり立っているイリアを横目にシリウスとリーマスに小さく頭を下げた。 「ありがとう、シリウス、リーマス」 「どういたしまして。、イリア、早く行かないと遅刻しちゃうよ?」 「い、今行きます!ほら、行こうイリア!」 「行くわよ!これで遅刻なんてしたらたまったもんじゃないわ!」 「わっ?!」 急にイリアに腕を引かれて指で差された方向に駆け出した。一瞬こけそうになった体制を取り戻して後方のシリウスとリーマスに再度お礼を言うと、シリウスの「急ぎすぎて転ぶなよー」という声が響いて聞こえてくる。それに苦笑を漏らしながら、私よりも幾分か走るのが速いイリアについていくために必死に足を駆けさせた。 無論、リーマスやシリウスから示された方角だけでは変身術の教室を見つけ出すことが出来ず、結局遅れて気まずい空気の教室に2人しておそるおそる入る羽目になるのはあと数分先のこと。 「うーん、間に合うかなぁ……結構ギリギリだよね」 「遅れるだろ。あの2人だけが方角だけで教室にたどり着けるとは思えねぇ」 「同感」 クスクスという笑みと共に聞こえたリーマスの柔らかな言葉に苦笑を漏らしつつ、廊下の奥へと消えて行った後輩二人の背中を見送った。つい先月、新学期を迎えて新しくホグワーツにやってきた新入生の・とイリア・ウィルキンス。これといって目立つわけでもない彼女たちだが、俺が名前と顔を覚えるくらいには接触があった。黒髪のと銀髪のイリアは容姿は正反対であるが、隣に並ぶとしっくりくるから不思議である。 彼女たちが見えなくなってもなおその廊下の先を見つめている俺に向かって、リーマスがにやりと笑みを向けてくるのを視界の隅に捕らえた。嫌な予感がして振り向くと、意地の悪い笑みは一瞬で消えて爽やかな笑みに摩り替わる。コイツほんとは俺より性格悪いよな、という本心は心の中にそっとしまっておくことにして。 「……なんだよ?」 「いや、なんでも?」 「……お前、気付いてるだろ」 「何にだい?」 確信犯だ、と心の奥で呟く。リーマスはいつだってそうだ。分かりきっているくせに、俺が口に出すことを憚っていると理解しているくせに、俺の口から直接言わそうとするのは昔から変わらない。それはリーマスの性格もあるが、それによって彼が俺に自覚させようとしていることにも薄々気付いていた。そして、今回のこれもきっとそう。 「……俺がを想うのは、いけないことか?」 そう、リーマスにもぎりぎり聞こえる程度の大きさで呟く。彼女と出会ってまだ1ヶ月足らず、しかし自分の中に芽生えたその感情は自覚していた。今まで同級生や上級生、または下級生に想いを寄せることはあったけれど、こんなにもある年齢差に最初は自分でも戸惑ったものだ。これは妹に対するような想いなのか、異性に対する想いなのか。今でもそれは霞がかかっているようにハッキリしていないけれど、を想っていること、それが事実であることに間違いは無い。 「誰もいけないなんて言ってないよ?それが異性でも後輩でも、ね。まぁ前者の場合、なかなか大変じゃないかなぁとは思うけど」 「……年齢差か?」 「まあ、勿論それもあるし……他にも、いろいろ?」 「いろいろ?」 「うん、いろいろ」 にっこりとした笑みを返すリーマスはこれ以上を言うつもりはないようで、 俺は詮索しても無駄だと再びとイリアが消えた方向を振り返った。きっと今頃ようやく変身術の教室を見つけて、マクゴナガル先生に説教をくらっていることだろう。あの2人が縮こまりながらそれを受けているのかと思うと、自然と笑みが浮かんだ。 ただ、後方でリーマスが険しい表情をしていることなど、知らないままに。 111001(新連載。1年生ヒロインと、5年生シリウスのお話です。) |