「こぢんまりとした式でいいんだろ?」 「うん、あんまり盛大じゃなくていいよ。大人数を招待する気は無いし」 「じゃあやっぱりこのどっちかだな。絞ってやったんだから、あとは2人で決めてくれ」 「はいはーい」 結婚式場のパンフレット2つをジェームズに渡すと、机の上に適当に置いてある招待客のリストが目に留まってそれを眺める。ジェームズの言ってた通りリストの名前は少なく、ざっと見て15人くらいだった。ジェームズならもっと盛大にやりたがるかと思っていたがそうでもないのか、あるいはここ数年で闇の組織が大きくなったことを考慮してか。どちらかは分からないが、そのリスト一番上に自分の名前が書いてあるのを見て口元を緩めた。 「そういえばリリー、ドレスの件どうなった?」 「え?あぁ、決まったわよ。オーケーだって」 リリーにそうか、と返事をして机の上に散らばっている書類に再び目を落とす。式のときに着るドレスはてっきり借りるのかと思っていたら、「オーダーメイドで作ってくれるお店の伝手があるから、そこに頼むつもり」とこの間言われたのだ。そのときはまだ向こうの返事待ち中だったらしいが、どうやら上手くいったようだ。人生で1度きりの結婚式なんだからやっぱりオーダーメイドがいいじゃない、というのがリリーの持論らしくてそれももっともなのかもしれないが、俺としては1回こっきりのためにオーダーメイドでドレスを作ってもらうのもどうかと思う。どう考えても金の無駄としか思えん、そう考えるのは男女の差だろうか。 「シリウス、決まった。こっちの式場」 「あーこっちな、分かった」 「……そろそろ一段落かしら。お茶いれるわね」 こっちのほうがいい、いやでもこちらも捨てがたいとぶつぶつ言っていたジェームズとリリーは決着がついたらしく、ジェームズが俺に報告を済ませるとリリーは立ち上がってキッチンへと向かった。ジェームズたちが決めた式場の住所を確認する。ここからそんなに遠くはない。 「悪いねぇシリウス、花婿付添人だけだったはずがいろいろ任せちゃって」 「まぁ予想範囲内だな。それに親友の結婚式となりゃ放置もしてられねぇよ」 「お、いいこと言うねぇ」 「どうせリーマスにもいろいろやってもらってるんだろ、そっちにもお礼言っとけよ」 「分かってるって」 最近は予定が合わなくて顔を見ていないが、リーマスもジェームズやリリーに頼まれていろいろやってるはずだ。ピーターは国外で仕事をしているため準備は手伝えないが、結婚式の当日は絶対に行くという言葉を聞いている。この幸せ夫婦め、とけたけた笑うジェームズを小突くと丁度リリーがトレイの上に紅茶をのせて戻ってきた。直接リリーの手から紅茶の入ったカップを受け取る。濃い橙色。 「あ、この紅茶うまい」 「でしょ?新しい茶葉なんけど、シリウスが好きそうだなって思って」 リリーはティーンスプーンに一杯分の砂糖を加えていたが、自分のはこのままで丁度いい。甘すぎず渋すぎす。だからと言って飽きる味でもない。流石リリーである、俺の好みさえも把握しているなんて。 「しかしごめんなさいね、シリウス……仕事とかもあるのに、いろいろ押しつけちゃって」 「あーさっきジェームズからも言われた。まぁ気にすんな、お前らの結婚は俺の切願でもあったし。俺も出来る限りのことはするつもりだ」 「……あぁもう君ってやつは!」 そういう恥ずかしいことさらっと言うなよ!というジェームズの言葉を、これが素なんだから仕方ねぇだろと適当にあしらった。リリーも今の言葉に照れたらしくわざとらしく紅茶のカップを口につけている。そんな反応されるとこっちも照れるんだがな、と思いながら自分の紅茶のカップに指を引っかけながら時計を見た。午後5時前。昼からポッター家に来ていたのだが、時間が過ぎるのは早くもう外はほんのりと赤かった。ぐいと紅茶を飲み干すと、イスの背もたれにかけてあった上着を羽織る。 「悪い、そろそろ帰るわ」 「え?夕食、食べていかないのかい」 「……ちょっと先約が」 アパートの隣人と食べる、なんて言ったら2人がどのような反応をするのかありありと分かる気がしたので、遠回しに事実を伝えておく。最近ではなんだかんだでさんとほぼ毎日一緒に夕食を食べるようになっていた。2人での楽しい食事をしてしまったら、独りでの食事は寂しすぎる。それはさんも同じらしく、今日も一緒に食べる約束をしている。 「じゃあなにかあったらまた言ってくれ」 「はいはい、分かってるわよ。今日は忙しい中ありがとうね」 「次に来た時はご馳走になるからよろしくな」 「……はいはい」 最後にそうやってリリーと言葉を交わすとポッター家の暖炉まで行って、橙色の炎にフルーパウダーを一摘み振りかけた。言い慣れた住所を素早く、しかし的確に告げる。次の瞬間にはアパートの部屋の暖炉だった。 100225(結婚式打ち合わせ。当日はまだまだ先だなこりゃ…) |