「シリウス、ジェームズ!」
「はい?」
「局長、今日は会議じゃなかったんですか」
「キャンセルだ。お前らも呑気に昼食べてる場合じゃないぞ」


今日も闇払い局の執務室には自分とジェームズが在中しており、その他の人たちは皆任務やら会議やら実験やらで出払っていた。そんな中ジェームズと昼食をとりちょっとした小話で盛り上がっていたとき、今日は一日中会議だと聞いていた局長が慌てた様子で執務室に入って来る。闇払い局ということもあってかまだ世間には知られていない新しいニュースを携えて入って来る人は毎日のようにいるので、局長が慌てたようにやって来たのもそれかと思いながらマグカップに残っていた食後のコーヒーを全て飲み干した。

ちょっとやそっとでは驚かない自信がある、しかし局長が会議までもを放って執務室まで報告しに来たからにはそれほど重要ななにかが起こったのだろう。そう思ったのはジェームズも同じのようで、お互い視線を合わせると小さく頷きあう。きっとこれから最優先任務が言い渡されるに違いないと、どういうわけか不吉な確信があった。


「動く準備はできてます、何があったんですか」
「……ロリア・マルーシェがやられた」
「なっ……ロリア先輩が?!」


意を決して局長に尋ねると、局長は自分たちがよく見知っている人物の名を出した。ロリア・マルーシェは自分より2つ年上で、ホグワーツ時代からお世話になっている先輩だった。ロリア先輩も自分たちと同じグリフィンドールで、彼女が闇払い局に就職すると知ったときは憧れと尊敬の念を抱かずにはいられなかったほどだ。そして自分やジェームズが2年遅れて闇払い局に入った時も親身に接してくれて、様々なことを教えてくれたのはロリア先輩だった。

そんな彼女がと、愕然と驚いていると局長は言い辛そうに話を続けた。


「誰かと戦闘したようで、血まみれになっているのをたまたまクラウドが発見した。幸い、命に別状はないらしい。ただ……」
「もう、この闇払い局には戻れないだろうな」
「クラウドさん!」


言いよどんだ局長の先を告げたのは、静かに入室してきたクラウドさんだった。局長とは反対にきっぱりと告げたクラウドさんは無表情で、それはいつもの彼のスタイルであったがそこには怒りや哀しみが滲んでいることは見てとれた。クラウドさんはロリア先輩と同期でそれなりに仲も良かったはずだ、それに彼女を発見したというのが彼ならば尚更思うことがあるのだろう。

クラウドさんの「もう闇払い局には戻れない」という言葉に絶望を感じ、それはどういう意味なのかとクラウドさんを問い詰めたかったが、無論そんなことをできる雰囲気ではない。ふとジェームズを見やると彼も相当驚きと絶望を感じているようで、珍しく彼の無表情を見ることが出来た。ジェームズはリリーとの挙式について彼女にもいろいろと相談をしていたと聞く。自分よりも交流があった分、ダメージも大きいのだろうと思うとやるせなさが募った。なんで、どうして、ロリア先輩が。


「クラウド、ロリアは……」
「聖マンゴ病院。まだ意識はないようだ。……おい、シリウス、ジェームズ」


クラウドさんに呼ばれて視線を向けると、そこには全ての感情を押し殺したクラウドさんがいた。クラウドさんがロリア先輩と仲が良かったのを知っているように、クラウドさんも自分やジェームズとロリア先輩の仲については知っているのだろう。彼の強い視線は、哀しむなとは言わないが感情を最優先にしてはいけないのだと、教えられるような気がした。

それに我に返り、一度小さく深呼吸をして再び彼の目を見る。感情を混ぜてはいけない。ここは闇払い局の執務室で今は仕事中だと、自分に叩きこむ。感情を押し殺すでもなく閉じ込めるわけでもない、ただコントロールして公私混合を避けろとクラウドさんは言っているのだ。


「これはロリアの記憶だ。出来る限りで、調べろ。……明日までに絞り出せ」


なにを、とまではクラウドさんは言わなかった。そしてそれを聞くほど自分たちは馬鹿じゃない。クラウドさんはすぐそばのテーブルに記憶の入った小瓶を置くと、そのまま何も言わずに退室してしまった。再びロリア先輩の様子を見に聖マンゴ病院へ向かうのか、はたまた彼自身の任務に戻るのか。その背中からは何も読み取ることはできなかった。

明日まで。クラウドさんから言い渡されたその期日はとてつもない無茶だなぁと思いながらも、ロリア先輩がやられたことに関して自分も何も感じていないわけではない。クラウドさんの気持ちも分かるからこそ、その無茶に答えてやりたいと思う自分がいる。やってやろうじゃないか。

ジェームズへと視線を向けると彼も彼なりに立ち直ったらしい、さっさと小瓶を掌に収めるとふとこちらへと視線を向ける。それだけでジェームズがなにをしようとしているのか、なにをしたいのか大体感じ取ることはできた。


「シリウス、役割分担だ。わかるね?」
「あぁ、そっちは頼む。……局長!必要そうなやつ、片っ端から許可下さい!」


お互いの連携プレーに思わずにっと笑みが漏れる。こういうのも久しぶりだなと思いながら、自分とジェームズの阿吽の行動に驚いている局長にそう告げると「オイ、大雑把だなぁ」と苦笑が聞こえた。闇払い局に属して半年、たったそれだけだがジェームズと組めばそれをも補える能力を発揮できるだろう、そう信じてやまないほどの信頼がジェームズにはあった。


そして夜をも徹して動きまわり、期日が迫る朝方、闇色のローブをまとった1人の人影に辿りついたのだった。



110321(ちょっと展開。オリジナルもりもり。ヒロインの影すらないとか…ええ…。)