![]() 「あっシリウスよ!」 「えっ?!どこどこ!」 「ほら、廊下の先!ポッターの向こう!」 「キャーッ!相変わらず爽やかでハンサム……あ、」 「貴女たち、またブラックに黄色い声を飛ばしているの?スリザリン生として恥ずかしくないのかしら?」 眉を潜めながらそう声をかけると彼女達は数秒しどろもどろとしたり視線を泳がせたりしたものの、最終的には諦めたのか「だってカッコイイんだもの!」と開き直って再びブラックへと視線を戻した。彼女達の視線を独占しているのは、ひとつ下の階にいるシリウス・ブラックである。我等がスリザリンとは常に対立関係にある、野蛮なグリフィンドールの同い年の男子だ。 かの有名な純血一族であるブラック家の出でありながら自らグリフィンドールに入ることを望み、勇敢と称して好き勝手に振る舞い、常に彼はスリザリンを忌み嫌っている。彼の出身家であるブラック家の教養に所以があるわけではない、これはもう彼自身の本質なのだろう。我が寮――スリザリンに在籍している彼の弟、レギュラス・ブラックを見ればそれは一目瞭然だ。 「、あなたもそろそろ丸くなったらどう?」 「そうよ、昔はともかく……今の彼の風貌は、認めるに値するわよ?」 「残念ながらブラックを認めるつもりなんてサラサラ無いわ!彼の容姿がどうっていうのよ、内面は醜くなっていく一方じゃない!」 「……ここまで来ると大した物だよね、の“シリウス嫌い”も」 「チェルシー!茶化さないで頂戴!」 これは私がおかしいのではない、みんなが騙されているのだ。確かにブラックの容姿は学年が上がるにつれてよりハンサムに、より爽やかになっていったけれど、悪戯の質や口は悪くなっていく一方である。親友のチェルシーまでもが最近は「まぁ、シリウスもなかなかイイ男になってきたよね」なんて言うものだからたまったものではない。 私は彼を許せなかった。私から、はたまた彼の弟であるレギュラスからたくさんのものを奪っていく彼を許せなかった。例えば名誉だとか、評判だとか、約束された将来だとか。そして、親友までも。 「なにを言おうと、ブラックはスリザリンよりもあの忌まわしきグリフィンドールを選んだ最低な裏切り男だわ!」 そうだ、彼がどれだけ容姿を磨こうとも、どれだけ素敵な紳士になったとしても。最終的にその消えない過去がある限り、私が彼を認めることなんて決してありえないのである。 |