「お前が見ているのはいつだって“シリウス・ブラックの弟”でしかないんだからな」


その言葉を聞いて、それまでぼんやりとしか動いてなかった頭を必死で働かせる。ど、どういうことなの。それって、それって。これまでの自分を思い返し、そんなことないわと口が開きかけたけれど言葉にはできなかった。そんなことないわけ、なかった。


(えっ、え……ど、どういう……えっ……?!)


「レギュラス・ブラックを見ていない」、「見ているのはいつだって“シリウス・ブラックの弟”でしかない」。それらの言葉が頭の中で跳ね回っているような感覚だった。その意味を噛み砕くのにはそう時間はかからず、その真意を掴んだ途端私はこれまでの自分を思い返して青くなった。

分かった。分かってしまった。私が今まで見てきたレギュラス・ブラックという人物は純血貴族であり、私のファインセであり、シリウス・ブラックの弟という位置づけにしかなかったのではないのだろうか。思えばレギュラスには毎日のようにブラックとの喧嘩の愚痴を言い、その苛立ちを忘れたいがためにいつもキスを強請っていた。その、意味は。


「……そ、そんな、わけ……」
「あるだろ?レギュラスやチェルシーは気付いてたぜ。お前が分からないはずがない」
「レッ……チェルシー?!な、何?!何なの?!どういうことなのよ!」
「どういうことも、何も。……はいつも俺のことを“純血貴族”としてだけじゃなく“シリウス・ブラック”そのものとして見ていた」
「な、何が言いたいのよ!」
「つまり、こういうことだ」


ブラックは不敵な笑みを浮かべて私との距離を縮める。私はぐちゃぐちゃになった頭ではなにも考えることが出来ず、身構えるもののそこから動くことは出来なかった。何を言われるのか予想はできていた。そしてその言葉に対する自分の感情も何となく分かっていた。

なんていうことだ。口を引き結ぶとじわりと視界が歪んだ。今までブラックのことなんて大嫌いだと、ずっと忌み嫌ってきたのに。あと1年、今までのように喧嘩をしていられればよかったのに。どうしてこのような結末になったのだろう、どうしてあと少しが持たなかったのだろう。なぜ今まで気付けなかったのだろう、なぜ今気付いてしまったのだろう。涙が出た。悔しい。悔しくて悔しくて、嬉しかった。


「なぁ、お前ずっと俺のことが好きだったんだろ?」


ブラックに抱きしめられてその言葉を告げられる。それが、真実だった。