![]() 私とブラックが付き合い始めたことは瞬く間に全校生徒に知れ渡った。それもそのはずだ、今まで飽きることなく繰り返されてきた喧嘩はホグワーツの風物詩とまでなっていたらしいのだから。最初は友人に驚かれたし廊下を歩いていると後ろ指を差されることもあったが、今では大分落ち着いてきたようでブラックと並んでいても注目を集めることはなくなった。 「ま、人の噂も七十五日、ってね」 「は?何だそれ」 「祖国のことわざなのよ。……はぁ、夏休みに一族からなんて言われるやら。気が重いわ」 「俺と一緒にジェームズの家に来いよ」 「はぁ?!馬鹿言わないで頂戴、我が家がポッター家に優遇されるわけなんてないでしょう!」 「そんなこともないと思うけど?」 「ポ、ポッター?!」 人気の少ない渡り廊下でぼんやりとブラックと一緒に夕日を眺めていたら急にポッターの声がして、慌てて振り向くとそこにはポッターと彼のガールフレンドであるエバンスがいた。ブラックと付き合い始めてからは彼等と接する機会も多く前よりは柔軟に会話ができるようになったものの、やはりこの数年間のグリフィンドールを毛嫌いしていたプライドが邪魔をしてなかなか素直になれずにいる。ポッターは無理矢理私とシリウスの間に割り込み、にやりとした笑みを私に向けた。 「まぁ、なんてったってシリウスの彼女だし?」 「だ、だから何よ」 「シリウスの“身内”は僕らの“身内”ってことさ!ねぇ、リリー!」 ポッターの呼びかけに応じるように、エバンスは「そうね、」と呟きながら私の隣へと移動してくる。例の魔法薬学の事件以来まともに彼女と話すことはなく、気まずさから視線を俯かせた。グリフィンドールの3人に囲まれるスリザリンの私は、他人から見たら一体どのように映っているのだろう。そんなことを思っているとポッターとブラックは悪戯話に花を咲かせ始めたようで、ちらほらとスリザリン生の名前が聞こえるのにギクリとしながら俯かせた視線を彷徨わせていたら、エバンスが唐突に「ねぇ、」と私の名を呼んだ。 「な、何かしら」 「ごめんなさいね」 「……え?」 「いろいろと。この間の魔法薬学の授業の時には言い過ぎちゃったわ」 視線を上げるとついカッとなっちゃって、と苦笑を漏らしているエバンスが目に入る。彼女の鮮やかな赤の髪は夕日に照らされて更に燃えるように輝いていた。あぁ、きれいなひと。うつくしいひと。悪いのは私の方なのに詫びる彼女はとても真っ直ぐで、素直で、グリフィンドールらしく勇気がある人だ。そんな彼女に対して私は。そう思い気まずさに唇を噛むと、彼女はそれさえも見越していたのか「気にしないで」と告げた。 「分かってるのよ、貴女が私を気に食わない理由なんて。私はマグルでグリフィンドール、貴女は純血貴族でスリザリン。相容れるはずがないわ。……だから気にしないで。無理して私のことを好きになろうなんて思わなくていいのよ。私はジェームズじゃないからすぐには貴女に優しく接してあげられないかもしれないし、キツく当たることだってあると思うわ。この数年間に蓄積されたものはそう簡単には壊せないもの。私も貴女と同じよ、善人じゃないわ。……ただ、これから仲良くなれるのなら、是非そうさせてもらいたいのだけれどね」 「……わ、私の方が、酷いこと、していたわ。貴女こそ、無理をしなくてもいいのよ?」 「心配してくれているの?」 「し、心配だなんて!……も、申し訳なく、思っているのよ、これでも」 ぼそぼそとそう告げると、途端にエバンスは笑みを浮かべて手を差し出してきた。仲良く出来そうだわという小さな言葉に戸惑いながらその手を握ると、ぎゅっと両手で握られる。あたたかくて、やさしくて、ひろい人だと思った。 「これで今までのことはチャラね?これからよろしくね、」 満面の笑みでそう告げられ、私はらしくもなく涙が出そうだった。 |