![]() 「まったく、相変わらず貴方のお兄さんはとんだ人ね、レギュラス!」 「あはは……。申し訳ないです、先輩。また兄さんがあなたになにか失礼を?」 あれから友人達と談話室に戻り、苛々した心を落ち着かせようとソファーに座ってココアを作っていると、隣にレギュラスが腰掛けてきたので遠慮なく先ほどのことを愚痴らせてもらう。これは最早私とブラックが対峙した時の恒例行事となっているので今更誰も止めることなどなく、またレギュラスに申し訳なく思う気持ちもそうなかった。 「ブラックが視線に入るだけで苛つくのよ!結局大した用事もないくせに、ただ私を苛つかせに来ているだけなんだわ!嫌味なヤツね!」 「うーん……」 「私よりも高貴な血を持ちながらアレでは、ただの宝の持ち腐れだわ!羨ましいを通り越して憎たらしいわよ!」 落ち着かせようとココアを口に含むとほどよい甘さとコクが広がった。その味わいにほう、と息をついて無意識に入れてしまっていた肩の力を徐々に抜いていく。こうしてブラックと言い争うたびにココアを飲んでいるのではいささか体型が心配になってくるのだが、それを思うと更に苛々してくるので思考の彼方にその考えを追いやった。癒し、癒しが必要だ、私の好きなものを考えよう。そう、それはブラック家の血筋。 「あぁ、彼の血は素敵だというのに……家も純血だけれど、ブラック家は別格なのよねぇ!」 「……先輩、僕にも一応その血が流れてるんですが」 「えぇ、分かっているわ!だからレギュラスは大好きよ!スリザリンでブラック家で……とっても素敵!」 「それは光栄です、先輩」 「うふふ!レギュラスは理解がある子で嬉しいわ……んっ、」 先ほどまで苛々としていた気分はどこへやら、レギュラスと話しているうちに気分はすっかり元通りになっていた。レギュラスに向かって笑みを浮かべた途端彼の手が後頭部に回されて、合わさるのは唇と唇。慌てて目を閉じると感じるのは、レギュラスの生暖かい舌と唾の味だ。ここが談話室だということなどお構い無しである。お互いソファーに座ってるといえど勿論座高はレギュラスのほうが高いのだ、仰ぐ私は漏れ出す唾を嚥下することで精一杯だった。私がゆっくりとレギュラスの背中に手を回すと、更に深いキスを求めてくる彼に応えるように舌を絡ませる。幸せな時間だった。 家は魔法界でも有名な魔法一族に名を連ねるひとつである。そのため、私は幼少の頃に親同士の約束でブラックと婚約を結んでいた。そのためホグワーツに来る前からブラックとは知り合いであり、その頃の彼はまだまだ可愛い男の子だったのでそれなりに仲が良かった。一緒に遊んだり買い物に行ったり、はたまたパーティなどで抜け出したりもしたし一緒にワルツを踊ったりしたこともある。 しかしそれもホグワーツに入学するまでの話だ。ホグワーツに入学して彼がグリフィンドールに在籍したことにより、ブラック家のほうからブラックとの婚約破棄を示された。しかしその代わりと言ってはなんだが、私はレギュラスと婚約を結ぶことになり今は彼が私のファインセである。それは周囲も承知のことであり、こうやって談話室で堂々とキスを繰り返しても誰も何も言ってくることはないのだ。レギュラスの優しい、けれど確実に私を熱くさせるキスも、彼の中に流れている純血のことを思えば私をいとも容易く解かせるのである。 |