ったら朝帰りなんだもん……ひとり部屋で惨めに眠りにつく私の身にもなってほしいよ」
「うふふ、チェルシーもレイブンクローの彼のところに通えばいいじゃない?」
「やだよ、彼はそういう人じゃないからね」
「そういえばチェルシーの浮ついた話ってあまり聞かないわよね?」
「そうよ、教えなさいよ!彼と付き合ってもう二ヶ月でしょ?」
「……秘密」
「えぇっ怪しいわよ〜!」
「ほらほら、吐いちゃいなさい!」
「あぁもうレヴィーもロゼアンヌもうるさい!……あっ、ルシウス先輩!」


ロゼアンヌとレヴィーがなんとかしてチェルシーの恋話を引き出そうと躍起になっていたそのとき、チェルシーが丁度ロゼアンヌの後ろからやってきていたルシウス先輩の名を呼んだ。恋人は別にいるのだがルシウス先輩に憧れを抱いているロゼアンヌはその途端に大人しくなり、運がよかったわねとチェルシーに心の中で囁く。それにしてもルシウス先輩がひとりで私たちの誰かに用があるなんて珍しい、とルシウス先輩を見ていると一瞬目があったような気がして小さく首を傾げた。


「こんにちは、お嬢さん方。ちょっとを借りてもいいかな?」
「えっ、……なんですか?」
「ここじゃちょっと」


場所を移動してもいいかい尋ねてくるルシウス先輩を断る理由など特に無いので是と返すと、じゃあちょっと行ってくるわねと友人達に言い残して椅子から立ち上がった。あんたなにをしたの、という視線を訴えてくるチェルシーに首をかしげ、踵を返して談話室の出口へと向かっているルシウス先輩の後を慌てて追う。ルシウス先輩はそのまま地上に向かい、一般の廊下に出ると一つ目の角を曲がってそこで止まった。誰にも聞かれたくない話なのだろう。しかしそのような話をされる所以が分からず、私は相変わらず何を話されるのか予測不可能なままルシウス先輩の言葉が切り出されるのを待った。


「何を話されるのか全く分からない、という顔をしているね」
「だって、本当に分からないんですもの。私、なにかしました?」
「うーん……してないといえばしていない、かな」
「なら、なんの話です?」
「シリウス・ブラック」


唐突に出された名前に小さく肩が震える。こうして名前を聞くだけでも忌まわしい、と苦虫を噛み潰したような顔をした。


「彼がどうかしました?」
「その顔、よっぽどシリウス・ブラックが嫌いみたいだね」
「えぇ、ご存知だろうとは思いますけれど。……それで?申し訳ありませんが、ただのからかいなら今すぐこの場を辞させていただきたいのですが」
「まぁ、そう熱くならないで聞いてくれ。……最近、どうも私には、君がシリウス・ブラックに想いを寄せているようにしか見えなくてね」
「…………なんですって?」


空耳かと思って再びルシウス先輩に尋ね返すと、ルシウス先輩は先ほどと変わらない声色で、そしてにこりと笑みを付け足して「最近、君がシリウス・ブラックに想いを寄せているように見える、と言ったのだけれど」と、この上なく勘違いされている言葉を告げた。