![]() 「君はレギュラスのファインセなんだろう?それにしては最近、少々シリウス・ブラックと異常に睦まじく見えるのだよ。レギュラスはきっと何事も言ってこないに違いないが、それではあまりにも彼が可哀相過ぎる」 「あ、あの!ルシウス先輩、お言葉ですけれど!私はブラックと仲睦まじくしていた覚えなんて、一切ないのですが?!」 「おや、毎日の痴話喧嘩ほど微笑ましいものはないと思うのだがね?」 「あれはっ!ち、痴話喧嘩などではありません!」 どうだか、と返してくるルシウス先輩は本当に私がブラックへと想いを寄せているように見えるのだろうか。そしてあれほど殺伐とした雰囲気であるのに、それを痴話喧嘩であると勘違いされていたなんて。もしかして他にも彼と同じように勘違いをしている人がいるのかもしれないと、表情に焦燥の色を滲ませるとルシウス先輩はクスリと笑みを零した。 「君はシリウス・ブラックのことが好きではないのかい?」 「えぇ!ブラックのことなど、これっぽっちも!」 「ならいいのだけれど。……まぁ、私は君が誰を好きでも応援するけれどね」 「先輩、実は結構お節介ですよね!」 「褒め言葉として受け取っておこう。では、失礼するよ」 言うことだけ言って私を翻弄させた挙句さっさと踵を返すルシウス先輩を睨むようにして見送った。方角からして談話室に向かったわけではないようで、私は先ほどの会話を思い出しながら談話室に戻るべく来た道を辿る。談話室では友人が待っており、そしてそこにはレギュラスもいるはずだった。一刻も早くレギュラスに会いたかった、そして彼を抱きしめたかった。 (私がブラックを好きだなんて!……ありえないわ!) 確かに昔は仲が良かった、けれどそれは昔の話だ。ホグワーツに入学して6年、彼とまともに口を利いたことなど一度も無い。会えば喧嘩を繰り返し、口から出てくるのは罵倒と陰湿な言葉のみ。しかしなんだかんだで毎日顔を会わせるので、こちらとしてはいい迷惑だった。 視界に入るたび苛つきを覚え、彼の声を聞くたびに胸がざわざわと波を立てる。毎回私に突っかかって来るわりに引き際は潔く、しかし嫌味のひとつやふたつを忘れることは決して無い。最近はチェルシーと仲がいいようで、それも彼が私を苛つかせている原因のひとつだった。嗚呼、むかつく。なんて最低なヤツなんだと苛立ちながら闊歩していたのだが、そこではっと気が付いた。 視界に入ると気になる、声を聞くと胸がざわつく、親友と仲がいいのを見ると苛立つ――これではまるで、本当に私が彼に恋心を抱いているようではないか。 ふと正気に戻った私は心に浮かんだその考えを掻き消すように頭を強く振ると、談話室に辿り着くや否や友人達よりもレギュラスの姿を先に目で探す。暖炉に近いソファーに座って雑誌を捲っている彼を見つけると、私はすぐさま駆け寄って座ったままの彼に後ろから抱きついた。わっ、と驚いたレギュラスの短い声に笑みを浮かべ、正面に回ると再び彼に抱きつく。どうしたんですかリサ先輩、そう尋ねてくるレギュラスに私はなにも言うことができず、ただ小さく頭を振って彼の胸に顔をうずめた。すこし甘い、シトラス系の香水が鼻孔をくすぐる。私が好きなのは彼、そう、レギュラス・ブラックなのだと脳裏に色濃く焼き付けるように、私はただただ彼を強く抱きしめた。 |