「シリウス」
「チェルシー。一人か?」
「残念、はいないよ。……ちょっといい?」


話があるんだけど。そう言ってすぐそばの空き教室を指すと、シリウスは何の話か検討もつかないというような表情をしながらも頷いてくれた。先に教室に入り教卓の傍で立ち止まって振り返ると、しっかりと扉を閉めたシリウスは中央あたりの机のひとつに腰を掛ける。そのすらりとした動きにやはり貴族の血が流れているのだと思わされ、柄ではないというのに少しの緊張がぴりりと背筋を伝った。


「俺と2人で会うなんて、に知られたらとんでもないことになるぜ?」
「バレないように工作したから平気だよ」
「……さすがスリザリン。で、話って何だ?」


まっすぐに目を見られる。それはすなわち、私もシリウスの目をまっすぐに見ているということ。グレーの彼の瞳は曇りなく澄み渡り、純粋さと悪戯心を併せ持つ真っ直ぐなもの。嗚呼、綺麗。素直にそう思った。私にはもう手に入れられないものだからこそ、美しく見えるそれが少し羨ましい。

そう、そんな彼だから。私は小さく息を飲み込んで、静かに告げた。


「私はこの6年間、誰よりもの傍にいた。きっとレギュラスよりも私の方が彼女のことを理解している」
「……それで?」
「他の人なら気付かないことにも、気付いてしまったのはそう遅くなかったと思う。それほど私はを見ていた。……ねぇ、シリウス。お願いがあるんだ」


何を言われるのか、シリウスもなんとなく検討が付いているのではないだろうか。分からないとは言わせない。それほど彼は馬鹿ではないはずだと、これまでの6年間で知っていた。

の傍にいたこの6年間、それはすなわちシリウスとの付き合いの長さとも比例している。入学した時から毎日のように口喧嘩を繰り返す2人を、一番近くで見てきたのは私だった。私がシリウスのことを分かっているように、シリウスも私がこんな性格だと分かっている。だからスリザリンとグリフィンドールといえど、そこそこの仲が私とシリウスの間にはあるのだ。

そう、6年間。長かったようで短かった6年間。来年で卒業を迎える私達は、後から動くのでは時間が足りないのだ。動くなら、今しかない。そう思ったからシリウスにこの言葉を告げることを決めたのだ。


を……あの子を――」