「あっシリウスだわ!」
「どこどこ?!」
「ほら!2つ下の階の、あそこ!」
「レイブンクローのクリスもいるわ!あぁ、かっこいいツーショット……!」


レイブンクローのクリスというと最近私たちの学年ではブラックの次に良い男だと噂されている彼かと、そんなことを思い出す。確かプラチナブロンドの髪に紫水晶の瞳、王子のような外見とは裏腹に意外とおもしろい性格。そのギャップが友人達はたまらないらしく、日々見かけるたびに黄色い声を上げているが私はてんで興味はなかった。そんなことを思っていると、何かに気付いたらしいチェルシーが私のローブの裾を引っ張り「ねぇ、」と声をかけてくる。


「……、シリウスとクリスだって」
「え?えぇ、聞いているわよ」
「例の“シリウス嫌い”はなくなったの?」
「……な、なくなったわけないじゃない!ブラックですって?!あ、あんなやつ、名前さえ聞きたくないわ!」
「じゃあ顔を見るのはどうなんだ?」
「顔なんてもってのほか――ブラック?!」


自然と会話に入ってきた声にふと視線を投げかければ、そこにいたのは見たくも聞きたくもなかったブラックがいた。先ほどまで2つ下の階にまでいたというのにどうして今ここにいるのか、そもそもどうしてここにいるのかといろんな疑問が思い浮かぶが、ブラックを前にしてそんな悠長に尋ねるなんてことは私にはできない。私は上目でブラックを睨みながら、決まり文句のようになっている言葉を今回もぶつけた。


「シリウス・ブラック!私の視界に入ってこないでと言ってるでしょう!」
「よっ、チェルシー。今日のはご機嫌斜めか?」
「シリウスが現れた途端ご機嫌斜めになったね」
「無視なの?!くっ……もういいわ!私は先に行くわね、チェルシー!」


私はさっさと視界からブラックを消すために踵を返すと、チェルシーの「私も行くよ」という短い言葉が聞こえる。どうやら他の友人たちはブラックに取り巻いているようで、彼女らの黄色い声が廊下中に木霊していた。


「今日はなんだかぼうっとしてるね、。体調でも悪い?」
「まさか!……課題の量にうんざりしているだけよ」
「そう?ならいいんだけど」


課題の量にうんざりしているのは本当だ。体調が悪くないのも嘘ではない。ただブラックといると調子を狂わされるような気がして、彼が視界にいるだけで気が気でならなかった。馬鹿馬鹿しいにも程がある、と口をきゅっと固く結ぶ。

ブラックなんて、大嫌いなんだから。それだけは誰に何を言われようと変わらないのだと、自分に言い聞かせるように強く心の中で思った。