今日は朝から苛立っていた。どういう偶然かは分からないけれど大広間でシリウスと2回も鉢合わせしてしまったし、レギュラスは寝坊をしたのか朝食に来なかったし、チェルシーはなぜか魔法薬学の授業に来ていない。しかも今日の魔法薬学はグリフィンドールとの合同授業だ、最悪なことこの上なかった。

こぽこぽと煮立つ鍋の中の色が明るい黄緑色なのを確認すると火を消して、マンドレイクの根を擂った粉をまぶしてからもう2回右に掻き混ぜる。明るい黄緑色が不気味な紫色に変わったのを見て教科書を確認すると、ラベルの貼ってある小瓶にとろりとその液体を流しいれた。蓋をしっかりと閉めてから小さくそれを揺らす。完成だ。

上出来なそれに満足気な笑みを浮かべながら提出するために教卓のほうへと進んでいると、前方からやってくる人物と視線が合ってしまい途端に笑顔を掻き消した。私が隠すこともなく不機嫌そうな表情を浮かべると、前からやってくるグリフィンドールのリリー・エバンスも急に顔を曇らせる。


「……何か用かしら、?」
「それは貴女のほうじゃなくて?エバンス」


私は彼女が嫌いだ、シリウスの次の大嫌いだ。グリフィンドールでマグル出身、それだけで嫌悪の対象になるというのに、それに加えて彼女はポッターやブラックといった純血出身の人物とも仲が良い。ポッターやブラックのことは大嫌いだけれども、マグル出身の彼女が純血出身と仲が良いというその事実が更に私に嫌悪感を抱かせるのだ。


「私は特になにもないけど?言いたいことがあるならハッキリ言ってちょうだい、
「はっ、貴女と話すなんてそのこと自体が時間の無駄だわ。そこを退いてくれるかしら、エバンス」
「あら奇遇ね、私も純血や貴族にこだわるあなたとお喋りなんてまっぴらごめんだわ」
「……次に言ったら侮辱と取るわよ。それとも羨望かしら?」
「まさか。その世界の狭さをぜひ知ってほしいと思うだけよ」
「っ、そこを退きなさい、穢れた血!」
「……っ!」
!」


エバンスが口をつぐんだ途端、それまで傍観していた周囲がざわついて誰かが私の名前を呼んだ。反射で聞こえた方向に振り返ると、そこには顔も見たくないシリウス・ブラックがいる。今私が彼女に向けて発した言葉に怒っているのだろう、眉を吊り上げている彼はいつも私と言い争いをしている時とは少し雰囲気が違っていた。


「今の言葉、今すぐ取り消せ!」
「なんで貴方に言われなくちゃいけないのかしら?!これは私とエバンスの問題よ!」
!いい加減にしろ!」
「な、んで貴方がそんなに怒ってるのよ!黙ってて頂戴!」
「リリーが大事な仲間だからに決まってるだろ!黙ってられるか!」
「……っ、」


一瞬言葉が詰まった。自分がどこに動揺したのか、それは自分でも分からない。けれどブラックはその私が怯んだ一瞬を見逃さず、私の手中にあった小瓶を奪い取ってエバンスに押し付けると私の腕を引いて教室の扉へと向かった。私はそんな彼の思い掛けない行動にされるがままで、教室を出る前にハッとして扉を掴んで拒絶反応を示したものの、ブラックの力には敵わずに引きずられるようにそのまま授業中の廊下へと誘われていく。

遠ざかっていく教室から聞こえるざわめきの中、教授に言い訳をしているポッターとエバンスの声が聞こえて、私はなにをしているんだろうかと顔をくしゃりと歪ませた。