![]() 絵画のナシの実をくすぐり、厨房へと抜けるとそこではいつも通りしもべ妖精たちがせわしなく動いていた。そのうちのひとりが俺に気付いて寄って来たが、俺は「ほっといてくれていい、仕事に戻りな」と声をかけて追い払う。厨房にはもう何度も訪れているのでどこになにがあるかは大方理解しているし、いろいろ世話をしてもらうほどたいした用事でもなかったからだ。ただおなかがすいたのだが、この午後4時という微妙な時間帯に大広間に食料があるはずもなく。なにか果物でもいただこうかと冷蔵庫を開けて物色すると、林檎があったのでそれをひとつ頂戴することにした。 「なぁ、これひとつもらっていいか?」 しもべ妖精のひとりにそう訊ねると、迷う素振りもなく是と言われたので「サンキュ」と一言告げてからそこから離れた。慌しく夕食の準備をしている彼らから少し離れた場所にある椅子に腰掛け、がり、と林檎を皮ごとかじる。蜜のたくさん詰まった果実と甘酸っぱい皮は丁度その林檎の食べごろを示していて、口の中でしゃりしゃりと咀嚼するとそのおいしさが更に滲み出ているみたいだった。 「こーら、こんな時間に食べちゃっていいの?夕食、もうすぐなのに」 「いいんだよ。…………誰、あんた?」 すぐそばで急に聞こえた聞きなれない声に誰だろうかと振り向くと、そこにはひとりの女子がいた。いや、ひとりといってもいいものなのだろうか。そこに存在する人物としてならそう数えるべきであろうが、存在する、というのもなにやら違うような気がする。しかし彼女がそこにいるという事実は確かで、けれどもこれは“いる”という定義におさめていいものかのか、はたして。そんなことをもんもんと考えていると、彼女は見て分からない?というように眉をひそめた。いや、分かる。分かるけれども。 「私、見てのとおり、ゴーストだけど」 いや、だから、それは分かってるんだって。 |