夕食の時間も近いことだしそろそろ寮に戻らねばと、グリフィンドール寮に向けて向かうと彼女は相変わらずついてきた。思えば彼女はゴーストだというのに、宙を浮くわけでも壁をすり抜けるわけでもなく、地に足をつけて俺と同じように歩いている。今は俺と一緒にいるからというただそれだけかもしれないが、それにしては不自然さなど微塵も感じられなかった。彼女は普段からこのようにして歩いているのだろうかと思うが、なぜかそれを訊ねるのははばかられるような気がして。

そしてグリフィンドール寮の少し前に来たところで、彼女は急にぴたりと足を止めた。どうしたのだろうかと半歩ほど後ろにいる彼女を振り返ると、そこには申しわけ無さそうに苦笑を浮かべる彼女がいて、それはこれ以上一緒に進むことはできないことを示している。それを容易く理解した俺は、特になにかを訊ねようとはせず、しかしこれだけは聞いておきたいと歩きながら思っていたことを告げた。


「俺はシリウス。お前は?」

「……、……


どうやら彼女の名前はというらしい。心の中でと何度か彼女の名前を呟くとそれが彼女にしっくりくるから不思議だ。彼女は驚いているのか、泣きそうになっているのかよくわからない表情をしていた。ゴーストも泣くかは知らないが。たかが名前を聞いただけなのだが、彼女にとってそれは深い意味があったのかもしれない。

どうにせよ、それらは俺の推測の域を出ないのだ。むやみにいろいろ考えるのは得策ではないと、先ほどと同じように考えることを止めた。ここまで来たのだからさっさと寮に戻って、少し休憩して、ジェームズたちと夕食に行こう。彼女とはお互いホグワーツにいるのだから会おうという意思さえあればいつでも会える。とりあえず、今日はここでお別れというだけで。


「じゃあな、


短く別れの挨拶を告げると、俺は振り返ってグリフィンドール寮へと進んだ。振り返らなかったので彼女がどんな表情をしていたかも、どのような行動に出たのかも分からない。けれどそれでいいと思った。まだ俺は、彼女に踏み込んではいけないのだと思った。

太った婦人に合言葉を告げると、通してくれながら「さっき、ひとりでなにをうろうろしていたの?」と訊ねられ、そうか、傍から見れば彼女と会話をしている俺は、ただ独り言をいっているようにしか見えないのだと今更ながらに気付いて恥ずかしく思った。まずい、俺、あちこちの廊下で普通の音量で喋ってしまってた。