マクゴナガル先生が好きだとかルーピン先生が好きだとか、はたまたダンブルドア先生が好きだとかそういうのはみんなが受け入れられる。むしろそれらの人物は名前が挙がって当たり前、スリザリン以外の全校生徒から好かれているのだから。もちろん私も例に洩れなくそれらの生徒方のことが好きだし尊敬もしている、しかし一番は彼等ではないのであった。ならば一番の先生は誰かって、そんなの聞くまでもないじゃないか。スネイプ先生に決まっているのだから。




「スネイプ先生、こんにちは!」
「……、またお前か」
「いいじゃないですかぁ、生徒が勉強熱なのはいいことですよ?」

はぁ、とスネイプ先生の溜息が聞こえるが今はそれさえ嬉しく感じた。それは他の誰でもなく私だけに向けられたもの、そう思うだけで心がぽっと暖かくなる。それではただの変態なのかもしれないけれどそれがどうした、恋とは人を恐ろしくするものだ。
スネイプ先生はこれまでの経験から私が長居することが分かっているのだろう、再び溜息を吐くとついと杖で椅子を指しながら「そこで待ってろ」と言われる。私が指定されたその椅子に腰を下ろすと同時に、スネイプ先生はカチャカチャと薬品の入っている小瓶を弄りはじめた。てっきりそれらを片付けるのかと思いきや先生は薬の調合を継続する様子で、杖を降って火をつけると鍋を煮はじめる。

「なんの調合です?」
「……浄水薬。裏の湖に流すものだ」
「あぁ、ベアソール石と月光草を使うやつですか?あの、綺麗な紫水晶のような色になる」
「……5年生にはまだ教えていないはずだが」
「やだなー先生、私伊達に魔法薬学を率先して学んでいるわけしゃないですよ」

否定するように手をひらひらと振ると先生は眉を寄せるがそれだけだった。毎日のように放課後は地下にあるこの教室に来ているがその目的の全てが先生に会いに来るというわけではない。もちろんそれが大半ではあるが、魔法薬学をもっと学びたいという探究心もあっての行動だ。
そのため図書室で関係のある本を借りたり上級生からいらなくなった教科書を譲り受けたりと、可能な限り手を尽くして独学で勉強をしている。先生がそれを知っているのか知らないのかは分からないが、私がその浄水薬について知っていたことについては意外だったのだろう。ならば、と前置きしてから先生は私のほうをこれっぽっちも見ずに尋ねてきた。

「100グラムの浄水薬を作る際に使うベアソール石の量は」
「……、的確には13.6グラム。でも0.4グラムまでの誤差なら問題は無いです」
「月光草は何日間月光に当てた場合が一番効くか」
「11日間。これより多い、あるいは少いと効果は期待できません」
「……煮詰めるのはどのくらいか」
「色が鮮やかな黄緑になるまでですね。2日置くと、紫水晶のような色になります」
「……いつ学んだ」
「去年の7年生から教科書譲ってもらったので、それで」

鍋をぐるぐると掻き混ぜながら先生は呆れたように息を吐くと、やっと私のほうへとやはり呆れを含んだ視線を向けた。他学年から教科書を譲り受けてはいけないという規則はないしいけないことはしていないはずだ、ただ魔法薬学への興味が他人に比べて大きいだけで。

「……来い」
「え?」
「興味があるなら調合を手伝わせてやる」
「ほ、ほんとですかっ?!やる、やりますっ!」

椅子の上にぽんと荷物を置いて杖だけをローブのポケットに突っ込むとそのまま先生の傍まで駆け寄る。いままで傍で見学させてもらったことは多々あったものの調合を手伝わせてもらえたことはなかった。期待に胸を膨らませながら作業台の向かい側に立つと、早速と言わんばかりに月光草をこんもりと渡される。

「手順は分かってるだろうな」
「バッチリ頭に入ってますよ、任せといてください」
「月光草は洗うな。3分の2は刻んで、」
「残りはすり潰す、ですよね?」
「……大丈夫そうだな」

先生の言葉ににっと笑みを浮かべながら腕を捲る。全ての手順は頭にきちんと入っているし、先生の作業スピードを考えても月光草を使う段階に入るまでには私の作業を終えることができるだろう。それをざっと計算すると月光草を手に取った。初めての先生の助手、それを思うと嬉しさが湧いてくると同時に誇らしさが込み上げてくる。

「にしてもいいんですか?私が言うのもアレですけど、こんな難しい調合手伝っちゃって」

折り畳みのナイフを取り出して月光草を丁寧に刻み始めたころでふと思ったことを尋ねてみる。先程の先生の言葉からすると、これは先生の趣味の範囲で行われている調合ではなく学校から依頼されたものであることは確かだった。それに生徒である自分が手を貸したとなれば問題にならないという保障はないだろう。しかし先生は特に考える様子もなく、さも当たり前だといったように鍋を掻き混ぜながら告げた。

「お前なら構わんだろう」

ぽそりと呟かれたその言葉は別に他意などなかったのかもしれない、けれどそれは私の心を浮き立たせるには十分すぎるものだった。躊躇いもなく告げられたたったひとこと、それは一体どういう意味なのか。考えれば考えるほど想像は良い方向へと転がり、自惚れるなと自分自身に釘をさすように咄嗟に言い募る。

「か、過信しすぎてませんか」
「それほど我輩の目は腐っていないはずだが」
「そ、それはそうですけど……っ」
「どうせなら好きなだけ自惚れとけ」
「せっ先生、絶対私のことからかってるでしょっ!」
「さあな」

先生は意味ありげな笑みを浮かべるとくるりと振り返って薬品棚から小瓶を取り出し、再びこちらを向いたときには無表情に戻っていた。それにぽうっと視線を奪われつつ、手元はきちんと動かしていた自分を褒めたい。ふと我に返って慌てて自分の手元の月光草を見つめると、かあっと身体全体が熱くなるのが自分でも分かった。う、自惚れてもいいのだろうか。



110209(ひとつには収まらなかった…。スネイプ先生夢とか久しぶりすぎて書きかた覚えてないよ)

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