「悪いね、セブルス」
「そう思うなら薬くらい自分で作れるようになれ」
「いやぁ、どうしても魔法薬学だけは昔からだめなんだよね。君も知ってるでしょ」

そう告げるとセブルスは学生の頃を思い出したのか苦い顔をして僕を睨んだ。うわ、不可抗力だって。確かにセブルスからしてみれば嫌な過去だったかもしれないが、自分にとっての学生時代は懐かしい思い出である。あの頃は楽しかったなぁと机に寄りかかりながら過去をしみじみと思い出すとそれらは鮮明に脳裏に甦ってきた。自分がまだホグワーツの学生だった頃にはジェームズやリリーがいて、ピーターもいて、そして今目の前で脱狼薬を作ってくれているセブルスもいた。思えばあのときが人生で一番楽しかった時かもしれない、そんなことを思いながらちらりとセブルスへと視線を向けると彼は調合に専念しているようで睨まれるようなことはなかった。
ぐつぐつと鍋の煮える音が広くはない教室に響いている。この教室は地下にあるため光源は蝋燭のみで、昔はこの教室があまり好きではなかったなと苦笑を漏らした。いや、別に今は好きだというわけでもないのだが。沈黙がしばらく続くが自分とセブルスが一緒にいる時はいつも会話などろくにないので気にならなかった。しかしふと思い出したことがあり、たまにはセブルスとゆっくり話すのもいいだろうと話を切り出す。

「最近グリフィンドールのがよくここに来てるらしいけど、どうしたの?」
「安心しろ、今日は来るなと言ってある」
「ふーん?随分と信頼してるようだね。一緒に調合もやってようだし」
「貴様……それをどこから」
「ふふ、秘密」

忍びの地図からこっそり拝見しておりました、なんて口が裂けても言えるわけがない。この間ハリーから没収した忍びの地図は過去をまざまざと思い出させ、目的などなくても暇な時はいつも眺めていた。職権乱用、いやいやそんなことはない。もともとは自分たちが作ったものである、使用権は自分にあると言い切れるのだから。そしてふと地下室にセブルスがいるのを見つけたとき、すぐそばに良く見知った生徒の名前があったから気になっていただけだ。グリフィンドールの
彼女がセブルスにお熱だとかそんな噂を耳に挟んだこともあり、その時はこれはまた変わった生徒もいたものだと驚いた覚えがある。しかし実際彼女と接してみると至って普通の生徒であり、授業も真面目に受けており成績もなかなか優秀。だからこそ気になっていたとセブルスの関係性、なんて言えば教師失格だろうかと心の中で苦笑を浮かべた。

「それで、何しに来てるの?」
「……にえらく執着してるな?」
「やだなぁ、セブルスほどじゃないよ」
「……」
「冗談だって。ただの興味本位だよ、首突っ込んで悪かったね。ただ、セブルスがそこまで生徒に目を掛けてるのってめずらしいから。しかもグリフィンドール」

凄い勢いで睨まれたので茶化すようにそう告げると、セブスルは一度溜息をついてから何も答えずに再び調合へと向かった。結局質問にはなにも答えていない彼の様子をみて、今回は苦笑を表に出す。もしかすると、もしかするかもしれない。そんな予想を立てるが、それはおそらく当たっているだろうとどこか確信めいたものを持っている自分に呆れた。セブルスは無意識なのか、それとも確信犯なのか。おそらく前者だろうと苦笑を濃くすると、セブルスの気に障ったのかきつい視線を向けられた。教師としてはあまりよくないのかもしれないが、このまま彼が彼自身の想いに素通りしていってはがあまりにも可哀相に思える。しょうがない、最初で最後の助言だと、呆れた声色を含ませつつ「ねぇ、」とセブルスに声を掛けた。

「セブルス。もう、いいんじゃないかな」
「は?」
「気づいてるんじゃない?のこと。自分がなにをしているのか、……なにをしたいのか」

そう告げるとセブスルは一瞬驚いたように目を見開いたかと思うと、すぐにそれを掻き消していつもの無表情に戻った。その表情から彼の心理を窺うことはできず、さて、どうなったかと少しの好奇心が胸を疼く。しかし思った通りそれはセブルスの機嫌を損ねたようで、彼の近くの椅子に掛けられていたローブをばさりと投げつけられた。

「……薬はできたら持っていく。出ていけ」
「はいはい。まぁ、教師としてこれ以上は言えないんだけど」
「出ていけ!」

少し古ぼけた自分のローブを腕に引っ掛けて立ち上がり、そのまま地下の教室を出て行く。自分が教室を出た途端にバタンと扉が閉められ、お節介すぎたかと少し後悔が頭の中を過ぎったがまぁいいかと階段をタンタンと規則的に登りはじめた。ついつい浮かんできてしまうのは、苦笑に似た確かな笑み。

「まぁったく、も物好きだなぁ」

優秀な自分の教え子を思いだす。頭はいいし容姿もそこそこ、東洋出身ということは珍しいがそんなのはどうにでもなる。引く手数多とまでは言わなくても人気はあるだろうに、なぜ彼女がセブルスを選んだのか自分には見当もつかなかった。それでもあんなセブルスは久しぶりに見たと、珍しいものを見れたことに関しては彼女に感謝をする。
タン、と最後の階段を登りきると夕焼けが辺り一面をオレンジに染めていた。それに目を細めつつズボンのポケットから懐中時計を取り出して時間を確かめると夕食の時間まではまだしばらくある。パチンと時計を閉じて先程と同じポケットに突っ込むとそのまま大広間へと歩みを進めた。自然と頬が緩む。思うのは、やはりセブルスとのことだった。



110211(リーマスがでしゃばる謎の人物になっている…。最初からこの話は彼視点だと決めていた。次で終わる予定)