これから俺がどうするべきかなんてとっくのとうに分かってる。それをしなければずっとずるずると引きずっていって前に進めないってことも知っている。思ったことをすぐに実行する猪突猛進型なのはいいことなのか悪いことなのか、俺はを探していた。

(……居ねぇなぁ)

ジェームズが部屋を出て行ってから数分間ぼーっとしたけれど、すぐにを探しに行くべく談話室へと降りた。ぐるりと談話室を見渡すとピーターは課題を片づけているらしく、リーマスは女子とティータイムを楽しんでいる。下級生やら上級生やら主に女子に声をかけられては適当に返してというのを繰り返しての姿を探したが談話室にはいないようだった。これからホグワーツ中を探しまわらなければいけないということに頭を抱えつつ、諦めるという選択肢は自分の中にはない。いくつかある探すべき場所を頭の中に思い浮かべながら太った婦人の肖像画をぬけた。とりあえず図書室行ってみるかと右の廊下を駆け出す。会ったらなにを言うかとか、どうやって接するかなんて考えていられない。とりあえず会う、そしてそのあとのことはそのときに考える。

「You are free like a bird.So you should seem to be you.」、ジェームズの言葉を思い出してはにかむように笑った。本当に、俺にぴったり当てはまってしまう言葉である。ああやってかっこつけているジェームズはそのままで、彼らしいから結構好きだ。

足にもつれるローブが億劫で、もうすぐ冬という寒い季節だがお構いなしにローブを脱いだ。走っているので身体はけっこうぽかぽかと暖かいしセーターも着ていたので平気だろうと思ったのだが冷たい風が意外とこたえる。ぶるり、と身体を震わせてから鞄にローブを落ちないように引っかけた。

「さて、」

俺の待ちびとはいったいどこにいるのだろうか。





わたがしみたいなあまくてふわふわしている恋を夢見ていた。

けれどそれはたかだか夢見ていただけにすぎないと今になって気付いた。本当に恋をするということはわたがしみたいにあまくもふわふわもしていない、にがさとくるしさのなかにほんのちょっぴりのあまさがあるだけのどうしようもないもの。それは、なんだかリーマスに対しては「だいすき」というピンク色のふわふわたしていた感情だったけれど、シリウスに対しては「だいすき」でも「あいしてる」でもない、想いがいきすぎてまっしろになってしまった今にも破裂しそうなものだった、というものに当てはまる。

わたしの夢見ていた恋とは正反対だけれど、わたしが恋をしているひとはシリウスだった。

「……い、ない……」

息を切らせながら天文学で使う塔の屋上まで来たのだが、今までの苦労と予想に反してシリウスはそこにはいなかった。ここは普段は立ち入り禁止なのだが、今までに何度かシリウスやジェームズといった面々と来たことがある。そのときに聞いた「俺、ここにはよく来るんだ。やっぱりホグワーツで一番空が綺麗に見えるのはここだからな」とはにかむようにして笑ったシリウスを思い出して来たのだが、どうやら無駄足だったようだ。

(じゃぁ……どこにいるんだろう、シリウス)

談話室も大広間も図書室も、悪戯仕掛け人がよく使う空き教室も含めて思いつくところはだいたい行ったつもりだ。今は冬なので外をうろうろしているとは思えないのだが、禁じられた森や湖のほうにいるのだろうか、と思いながら塔の壁にもたれるようにして座り込んだ。冷たい手をこすり合わせる。もう11月も半ばということで随分と風が冷たかった。かろうじてセーターは着ているものの、マフラーも手袋もしていないので肌に直接触れる風が冷たいを通り越してもはや痛い。スカート一枚を通って伝えられる床も随分と冷たくて、身体の体温が奪われていくのが分かった。今誰か来たら確実にスカートの中を見られるがスパッツを穿いているしどうせこの季節だ、誰も来ないと思うので気にしない。

(……ちくしょー、寒いけど疲れた……)

ホグワーツ中を駆けまわったし更に塔の屋上へも階段を駆けあがってきた。疲れないはずがない。しかしこのまま座り込んでいると凍傷になりかねないので塔を下りるかと立ち上がろうとした、そのとき。

「――?」

馴染みのある声にはっと身体を強張らせた。急いで階段を駆けあがってくる音がして、俯かせていた顔をゆっくりと上げた。まさか、と思いながらも期待を込めて視線をあげる。だって、間違うはずのない、彼の声。

息を切らしてそこに立っていたのは、やはりシリウスだった。





図書室には居なかったので適当に廊下を歩き廻りながら、廊下ですれ違った知り合いにの所在を尋ね歩いていた。 しかし誰に聞いても「見かけていない」「知らない」ばかりで、しまいには女子に「そんな子ほっといて一緒に遊ばない?」なんて誘われてしまった。もちろん即答で断って無視したが、なかなか見つからないにいらいらとする。探しているのになにやってんだあいつは、と本当に機嫌を悪くしてきたころ、レイブンクローの先輩が俺がを探しているという噂を聞いてわざわざの目撃情報を届けてくれた。

「天文学で使う塔に登って行ったのを見かけたわ」
「天文学の塔?なんでこんな寒い時期にそんなとこ……」
「さあ、それは分からないけれど。あそこ普段は立ち入り禁止だから、追いかけるなら先生方に注意しなさいね」

注意までしてくれた先輩にお礼を言うと、そのまま天文台まで駆けた。そして先生方がいないのを確認してから急いで階段を駆け上がる。息が切れるが気にしてはいられない。しかし、塔を登るにつれて冷たくなっていく温度には耐えきれずに途中でローブを羽織った。とはいってもたかがローブ一枚ではその寒さなど変わらないに等しく、体温がじわじわと奪われていくのが分かる。なんでこんな厄介なところには行ったんだ。もし塔にいなかったら俺の行動が馬鹿みたいじゃないか。あとで散々言ってやろう。階段を駆けあがりながらそんなことを適当に考えていると、塔の上のほうから衣擦れの音が聞こえた。

「――?」

小さく名前を呼んでみるが反応はなかった。急いで残り少ない階段を駆け上がる。そこにはついに、探しても探しても見つからなかったの姿があった。嗚呼、やっと会えた。



星のきらめきのような一瞬を




091209(あと1話で終われなかったよ!笑 あれだけ言っといて実行できない自分があほらしいですよね…。とりあえず、次で最後(の予定)!)