「え、は光夜と付き合っているんでしょう?」
「……えっ?!」
「あっ馬鹿!なに言っちゃってんのよ!」
「えっ?え、えぇっ?!」
王女が黒嶺に連れられて早2ヶ月、今では澪良さんや王女と一緒にお喋りをするほどになっていた。
私も仕事が忙しいことには変わりなく、そもそも身分的にこうやってのんびりとお茶をしていられる立場ではないのだが、
王女の衣服を仕立てたり大きさや刺繍の確認をしたりなど度々顔を合わせている間になんだかんだで仲良くなってしまったのだ。
もともと呉服屋という職業柄、王宮での顔は広かったので誰にも咎められることはないのだが、
もしこれが黒嶺という国でなければありえないことだろうと思う。
そして世間話に花を咲かせて数分、芦琉殿下と王女の話になり、
逃げるように王女が「そういうはどうなのよ!」と話の矛先を私に向け、私が相手すらもいないとさらりと答えると、
まさかの王女からの爆弾発言が降ってきたのだ。
なぜ知っているのかということよりも、澪良の言葉に驚いてどういうことかと問い詰めると、
澪良はやがて降参したというように小さく息を吐いて実は、と真相を語ってくれた。
***
バン、と勢いよく扉を開けるとそこには立って巻物を紐解いている光夜がいた。
私の姿を眼に留めると驚いたような表情をして、そして「仕事中だ」とだけ告げると再び巻物へと視線を戻す。
仕事中だから邪魔をするなということだろう、けれど今の私はそれどころじゃなかった。
私はつかつかと光夜に歩み寄ると、裾を払ってぐいと光夜へとまっすぐに視線を向ける。
怒っている、というよりも驚きと動揺であふれたこの感情をどうしていいのか分からない、といったかんじだ。
「光夜、澪良さんから聞いたわ」
「だから、俺今仕事中……聞いたって、なにを?」
「なんで黙ってたの?!お、王宮の人みんなが私たちの関係を知ってるってこと!」
私がそう告げると、光夜は一瞬びくりと肩を震わせてそろりと私に視線を向けた。
しかし私の視線と交わる前にすぐに巻物へと戻す。
そしてぼそぼそと言い訳染みた言葉を告げた。
「……が面白かったから、つい」
「つ、ついってなによ!私がどれだけ悩んだと思って!」
「いや、なかなか機会がなくて言い出せなくてだな!だ、黙りたくて黙ってたわけじゃない!」
「それは光夜が大っ嫌いな言い訳っていうのよ!」
「ぐっ……!」
光夜はなにも返す言葉がないようで、巻物の紐を手で弄んでいた。
私は落ち着こうと大きく息を吐くと、それまでのことを思い出して恥ずかしくなり両掌で顔を覆って座り込んだ。
なんだったんだ、今までの私の葛藤は。
私と光夜がつり合うとかつり合わないとか、そういうことを考えていた自分が馬鹿みたいだ。
どっちにしろ王宮の人々には既に認められていたというわけで、それは、つまり。
「し、知らなかったのって本当に私だけじゃない……!」
「……まあ、そういうことだな」
光夜に手を差し伸べられて立ち上がると、光夜は私を宥めるかのように抱きしめて頭を撫でた。
そうか、これからはこうやってみんなの前で堂々と恋人同志でいられるのか。
それは嬉しいことだけれども、今はやはり私だけ知らなかったという恥ずかしさの方が優っていた。
「悪い、暇になったらお詫びになにか送る」
「いらない!馬鹿!ほんとに光夜の馬鹿!そして私も馬鹿!」
「……少し黙れ」
光夜はそう面倒くさそうに呟くと、無理矢理私の顔を上向かせて唇に触れた。
離れようと光夜の腕の中でもがくものの、そうも簡単にはいかないようで。
やっと唇が離れると、乱れる息の中で光夜が少し照れくさそうに「ただ言うのが恥ずかしかったんだよ」
と呟くものだからうっかり許してしまいそうになった。
Secret for you
110731(まあこういうオチですよねサラッといっちゃってすみませんまじすみません…。恥ずかしいお話が書きたかったんだと思われます。ヒロインちゃん恥ずかしがってるけど書いてる私のほうが恥ずかしいよ)
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