愛と憎しみをイコールで結べ
「さん」
「はい?…ぎゃっ?!」
ビジョップに呼び止められて振り返ると、途端に額にパチンと衝撃が走る。
デコピンされたんだと一瞬で理解するけれどその理由が皆目見当もつかず、私は驚きと戸惑いのせいで一歩後ずさった。
な、なんですか、とビジョップに警戒しながら呟くと彼は溜息をついてやれやれといったように俯く。なんなんだ。
「働き過ぎです。さん、寝てないでしょう?」
「…寝てますよ。ビジョップは知らないだけで」
「ほう、強気な発言ですね」
「……失礼します」
このまま長話になると面倒事になると瞬時に感じ取った私は早々と話を切り上げてその場を去ろうとするが、背を向けた途端にうなじの衣服を掴まれて止められた。
まるで首根っこを掴まれた猫の気分だ、と思いながら振り返る。
私の苛ついたような表情を見て、ビジョップは少し眉を動かしたけれどそれ以外の変化は見られなかった。離してほしいんですけど。
「まるで、他のことを忘れようとしているかのように見えますよ」
「…遠回しなんてビジョップらしくないですね」
「じゃあ直接。…ルークのことを、忘れたいんですか」
ビジョップの表情は変わらない。そして私の考えも変わらない。答えはもう、とっくの昔に出ていた。
「忘れるわけありません、私に仕事全部押し付けてすたこらさっさと去って行った人ですからね?もう呪いたいくらい憎いです。
…一生、忘れてなんてやりませんよ。そうしたら、彼の行動は全て…無意味になってしまう」
「…随分と愛のこもった憎しみですね」
「知りませんでした?愛と憎しみはイコールで繋がってるんですよ」
「初耳です」
そこまで告げるとビジョップは私の衣服をぱっと離してくれた。
開放された首元にふうと息を吐きながら、最後にちらりとだけビジョップを振り返る。
その視線に気づいたビジョップが、愛してたんですか、とぽつりと呟いた。
私はそれに笑みだけを返すと、そのまま視線を戻して研究室へと向かう道を辿っていく。愛してた、じゃない。いまも、ずっと。
Love is awfully violent!
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