da capo


日本支部から異動してきて数週間。事務にはようやく慣れてきたと思い始めたのも束の間、それと並行して討伐任務も任されるようになったので私の京都出張所での生活はてんてこ舞いだった。あまりの忙しさに家に帰る時間さえ惜しく、出張所内のシャワーとランドリーを使いながら仮眠室にお世話になる生活が続いている。私のアパートは出張所から少し遠く、この忙しさもあって同僚達からもその行為を黙認されていた。いや、黙認というよりむしろ哀れんだ目で奨励されていた。

そんなこんなで家を空けて数日、勤務の休憩時間に所長に呼ばれて彼を訪ねると、何やらアパートの大家さんから連絡があったらしい。私は携帯を所持していないため、直接出張所に連絡をくれたようだ。何事かと出思い張所の電話を借りて折り返し連絡をすると、とりあえず一度アパートに来てくれないかと慌てた声で言われる。私は首を傾げながら、所長に許可を取ってから自分のアパートへと戻った。はて、なにかした覚えなどないのだが。

そのように気楽にアパートへと向かった私の心を粉々に打ち砕いたのは、老婆の大家さんの「堪忍なぁ、明日までに立ち退きしてくれへん?」という間の抜けたような、けれど目が飛び出るほど衝撃的な言葉だった。



120407(行き先不明のまま連載開始)   back da capo next