目を覚ますと志摩が隣にいた。一瞬びっくりしたけれど、あぁそうか、そういや私の家で飲んでそのまま寝たんだっけ、と昨夜のことを順次思い出して納得する。しかし確かこいつは床で寝ていたような気がするのだが、いつの間に私のベッドにもぐりこんできたのだろうか。目も覚まさなかった自分に驚くものの、この隣で寝ている人物の存在が自分にとって自然なものになっているのだ、とも素直に思った。
いい機会だと、目の前の寝顔をとっくりと眺める。いつも眉間に寄せている皺はなく、そのせいか普段よりも幼く感じた。いつもこんな顔をしていればいいのにと思いつつ、仕事中の眉間に皺を寄せてきりっとしている真面目そうな顔も好きなので、どちらも捨て難い、などとくだらないことを思う。本当にくだらないな、と自分に苦笑を漏らした。
「…何笑っとんねん」
「あ、起きた?」
「アホ、あんな見つめられとったら起きるわ」
志摩は少し照れているらしくぼそぼそと呟き、体温を求めるように私を抱き寄せながら小さく欠伸を零した。それがなんだか可愛くて、私はまだ寝ぼけている唇にむちゅっとキスをひとつ落とす。志摩は一瞬驚いたような顔をしたけれど、自然に私の後頭部に手を回すと啄むようなキスを繰り返した。触れては離れ、何度も角度を変えて唇を合わせていると、やがてしっとりと湿った唇で深いキスを交わす。
銀色の糸を引きながら一旦唇を離すと、どちらともなく布団にもぞもぞと潜り込んだ。志摩は私の身体を引き寄せるけれど、私はそれから逃れるようにくるりと彼に背中を向ける。濡れた唇を甲で拭った。
「今朝はえらい積極的やなぁ」
「志摩とのキスは気持ちいいから好き」
「ええこと言うやん」
そう笑いながら告げた志摩が後ろから抱きしめてくるけれど、先程のキスのお駄賃として大人しく抱きしめられてやった。いろんな箇所を撫でられたり触られたりするけれど、彼の好きなようにさせておく。呼吸の度に小さく上下を繰り返す大きな身体に包まれていると、まるで自分がとても小さい生物のように感じた。ふわりと香るのは昨夜飲んでいた酒のにおい。ムードもなければ色気もない。
「志摩、酒臭い」
「…言っとくけどな、もめっちゃ臭うで」
「女に臭うとか言うわないでよ」
「ほんまのことやさかい」
「あーあーもーベッドからでてけ!」
「なんでそうなるねん!」
出てけ、と言ったものの志摩の出ていく気配がなかったので私がベッドから這い出ると、続くようにして志摩も出てくる。なんなんだと思いつつ、とりあえずベッドの前のサイドテーブルに散らかっている昨夜飲んだからっぽの缶ビールと余ったつまみを持ってシンクへと向かった。志摩は私が持ち切れなかった分の缶を手に、同じくシンクへと向かって来る。
「志摩、シャワー入ってきてよ、酒臭い」
「…なぁ、こそ俺に対してひどない?」
一旦シンクに缶とつまみの入っていた皿を置くと、志摩の言葉を無視して再びベッドがある部屋へと戻る。途端にむわんと香る酒のにおいに顔をしかめると、さっさと窓を小さく開けた。朝の爽やかな風が部屋の空気を一掃する。
「うわ、シーツも酒くっさ…替えよ」
「シーツ替えるとかエロいわー」
「そこの僧正、煩悩駄々漏れてるよ」
「男やもん」
後ろから急に抱きしめられ、振り払おうと後ろを向いた瞬間に唇を奪われる。先程の啄むものでも最後に交わした深いものでもなく、やわやわと上唇を食まれるようなキスにくらりと目眩がした。厭らしくお腹をなぞる手にふるりと身体を揺らすと、その手はまるで私を追い詰めるようにのぼり続け、やがて服の上からやんわりと胸を撫でた。震える身体を隠すように身をよじりながらトンと志摩を軽く押すと、簡単に志摩は唇を解放してくれる。依然、彼の片手は私の胸に置かれているのだが。
「手、」
「て?」
「どけてよ変態」
「ええー」
にや、という悪戯心が疼いているような志摩の表情に焦るのも束の間、胸を強く揉まれて「んぁっ、」と嬌声を漏らしてしまう。痺れるような甘い痛みに堪えながら、流される前にと志摩の手を振り払った。
「朝からなに盛っとんねんアホ!」
「、言葉移っとるで」
「あーもううるさいうるさい!アホ変態志摩!あっちいけ!」
「ええやん胸くらいー」
「朝はやだ」
「ほんだら夜は?」
「…私の機嫌次第?」
「え、えぇー…」
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