「ひどいよね。私がすごく頑張って図書館に誘ったのに、なにもないんだもん。このまま図書館で勉強するだけでゴールデンウィーク終わるのかと思ってた」
「なぁ、しかも志摩きっと最終日どっか誘うんにもギリギリまで迷っとったでたぶん」
「よかった、誘ってもらえて」
「どっちが女々しいんやってなぁ」
「土井くんもよっぽど女々しいよ」
「えっさんひどない?!」
「おいお前らなに好き勝手にほざいとるんや…!」

だって事実だもんねぇ。なぁ。とお互いに顔を見合わせてくすくす笑みを漏らすさんと土井に、軽く堪忍袋の緒が切れかかったもののなんとかつなぎとめた。そう、結局はそういうことだったのだ。土井とさんが組んでいた。

どうやら土井は俺の想いに気づいただけではないらしく、さんから俺への想いにも気づいたらしい。まぁ、早い話が俺とさんは両思いだったってことだ。そこで土井は俺の知らぬ間にあれやこれやとさんにいろいろ吹き込んでいたらしく、それをさんから聞かされた時は思わず京都に帰省中の土井に怒鳴り電話をかましたものだ。まぁ結局はめでたい報告ができたのでよしとするものの、今回のいろいろで土井は俺の気をつけなければいけない人物リストに見事に登録された。侮れないやつである。

「さん、俺のこと土井から聞きよったん?」
「いや」
「さすがにそないなことせぇへんよ、俺」
「じゃあなんで、その、期待しとったん?図書館以外になんか起こるかどうか」
「簡単だよ。土井くんが協力してくれるってことは、すなわち志摩くんも少なからず私に好意を抱いてるってこと。志摩くんが嫌がること、土井くんはしないだろうなぁって思ったから」
「おい、土井のおせっかいのせいでバレたんやん」
「ええやん、結果オーライや」

そこまで土井が言うと、さんはパタンと塾のノートを閉じた。それに気付いた俺と土井はふと視線を上げ、彼女を見遣る。

「でもやっぱり怖かったし、思い違いじゃないかとも思ったし、すっごくはらはらどきどきしてたよ」
「…そんなん、俺かってや」
「あーもー惚気は俺がいないところでしてぇや!」

土井はカツカツとシャーペンで机を叩きながらそう告げ、そして思い出したように「そういや、」と話を切り替えた。

「なんでさんと志摩、名前で呼び合わんの?」
「えっ?!」
「…俺らの自由やん」
「でもさん、名前呼びのほうが嬉しない?志摩かて」
「そら…」

ちら、とさんを見ると、さんの顔はそう赤くなっていないものの恥ずかしさはあるようで、口を固く弾き結んで固まってしまった。なぁ、とにこにことした笑みを浮かべた土井に促進されて、さんはもごもごと口を動かした末に「う、うん」と小さく返事をする。それを聞いた土井は、ニヤリとした笑みを浮かべて俺を見てきた。呼べってか。

「…………」
「う、うん」
「…なぁ、俺のことも呼んでや」
「えっ?!あ、う、…………じ、柔造、くん」
「なぁ、俺から言いだしといてあれやけど、俺めっちゃ惨めやない?え?」

自業自得や、と土井に吐き捨てて、俺はを引き寄せて彼女の額にひとつキスを落とした。この友人に嫌がらせが半分、がかわいすぎてたまらなかったのが半分。はびっくりしすぎてシャーペンを落とし、土井はあまりの見てられなさに「うわー俺完っ璧に邪魔者やん…」とぼやきながらそそくさと出ていった。まぁかわいい彼女もできたことだし、と隣の真っ赤になっているを見つめながら、とりあえずこれで土井のことは許してやるかと息をついた。これからの幸せの日々については、彼に感謝をしなくてはいけない。




120814(これで終わりです、ありがとうございました!)  back プラトニックに溺れて あとがき