![]() 「もう!貴方はなんでそういう物言いしかできないの?!馬鹿なの?!えぇ、馬鹿なのね!」 「ばっ、バカとはなんだよ!それを言うならお前はアホだ!アホ!」 「なんですって?!そのような物言いが品格が欠けているって言うのよ!昔の礼儀正しくて可愛らしかった貴方はどこへいったの?!」 「宇宙の彼方に行っちまったよそんなもんとっくにな!お前こそ昔のお淑やかさはどこへいったんだよ?!」 「今も十分お淑やかよ!」 「ハッ、どこが!」 「どっ……ひ、品格に欠ける貴方には分からないでしょうけどね!」 「はいはい阿呆だの馬鹿だの言ってる時点で品格もくそもないわよ、」 「チェルシー!」 とうとう聞くに堪えないと思ったのか、それまで傍観していたチェルシーが仲裁に入ってやっと私とブラックの口喧嘩は一時中断する。付き合いを始めても私とブラックの口喧嘩は絶えず、今まで通り毎日のように廊下で言い合いを続けていた。またやっていると素通りをする人もいれば冷やかしをする人もおり、はたまた面白がって傍観している人だっている。私とブラックは至極真面目に言い合いをしているというのにどこに面白い要素があるというのか。 「チェルシー、貴女はいつもブラックの味方なのね?!」 「まさか、の味方に決まってるよ」 「……なぁ、俺あいつの思考だけはいつになっても分からねぇ」 「私もよ」 その私とブラックの呟きが聞こえたのか、チェルシーはくすりと謎めいた笑みを零して廊下の先を指差した。そちらに視線をやると、傍観していた人たちに混じってポッターやエバンスの姿がある。2人してどうやら笑いを必死に堪えているようで、しかし堪えきれていない事実に彼等は気付いてないのだろうか。ズカズカとそちらへ向かうブラックに呆れながら彼の後を追おうとして、そしてふと振り返ってチェルシーの手を取った。 「?」 「チェルシー、私、分かった気がするわ」 「何が?」 「私は今まで純血だとか貴族だとか、そういうものにこだわり過ぎていたのね。……そのこだわり過ぎていた、という事実にさえ気付かなかったんだわ」 笑いを堪えているポッターとエバンスに笑うなら笑えよ、と苛立つように告げているブラックを見ながら思う。過去の私はスリザリンであること、純血貴族であること、それらに誇りを持ちすぎるが故に周りが見れなくなっていたのだと今なら分かっていた。 今までの私はグリフィンドールというだけで嫌悪し、忌み嫌い、勝手に自分の中でその人物像を創りあげていた。しかし実際はどうだっただろうか。ポッターやエバンスとより深く関わるようになって、それまで強く固められていた私の中の彼等はぼろぼろと崩れていった。こんな人だったんだ、こんなことに楽しさを感じて、こんなことに喜びを感じる人だったんだ。新しい発見が次々と私自身の中の彼等を塗り替えていった。 私は狭い鳥籠に自ら閉じこもって、外の世界を知らなすぎたのだ。そこから一歩飛び出してみれば、そこは眺めが全く違う、けれども同じ世界だったというのに。見る角度によってこの世界はいとも簡単に景色を変え、私にいろんなことを教えてくれる。 まだ鳥籠から抜け出したばかりの私はその変わりゆく景色に戸惑うばかりで、世界の広さに思わず目を瞑ってしまいたいほどで。今までの自分の弱さを、甘さを、浅さを目の前に突きつけられる連続だった。再び鳥籠に戻りたいと思うことさえあった。価値観の異なる他人と共存するのはすごくすごく難しい。けれど私には手を引いてくれた人がいる。レギュラスやチェルシー、エバンス、そしてブラック。 「!」 「今行くわ。……行きましょう、チェルシー」 ブラックに呼ばれてチェルシーに微笑みかけると、チェルシーはまるで泣きそうになりながら微笑んだ。私はそれに応えるように、彼女の手を取ったままブラックの元へと駆け出す。 これから私はいくつもの世界を見るだろう。そしてその度に過去の自分を振り返るに違いない。あぁ、あの時私の見ていた世界はなんて狭かったんだろう。作られた主義に捕らわれて、狭いことにも気付かずにいた私はなんて浅かったのだろう。 でも今の私はその狭い鳥籠から抜け出して、これからは自分の足で歩いていける。時には誰かに手を取られて、時には誰かの手を引きながら。そして絶え間なくこの瞳に映し出してみせるのだ、この広く果てしない、私の知らなかった世界を。 (120101...あとがき) |